■細菌検査とは?
細菌は肉眼で見ることはできません。そのため患者さまから採取された検体を培養し(培地に検体を塗る)、病原菌がいるか、いないかを検査します。病原菌がいる場合にはそれが何という名前の菌(同定)でどんな薬が効くか(薬剤感受性)を検査します。細菌検査は生化学検査のように検体提出してもすぐに結果はでません。
○培地上に発育した菌とグラム染色像
黄色ブドウ球菌(血液寒天) |
大腸菌(BTB寒天) |
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▲赤色の血液寒天培地に、白色〜黄色のコロニー(細菌の集落)が見える。コロニーの周りで、培地の色が薄くなっているのは細菌が培地に含まれる血液を溶血したためである。 |
▲緑色のBTB寒天培地に、黄色のコロニーが見える。 |
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▲グラム染色の顕微鏡写真。球状の細菌がブドウ状に不規則に見える。 |
▲グラム染色の顕微鏡写真。桿状の細菌が見える。 |
○常在細菌と病原菌
前項で「病原菌がいるか、いないかを検査します」といいましたが、それは培養によって観察される菌が全て病原菌とは限らないからです。人はみな皮膚や口腔内、消化管に菌を持っています。主な例を以下にあげます。
皮膚 |
表皮ブドウ球菌、アクネ菌(にきびの原因菌)など |
口腔内 |
緑色レンサ球菌、ナイセリア、嫌気性菌など |
消化管 |
腸球菌、腸内細菌(大腸菌など) |
これを常在細菌といいます。常在細菌は外来菌(病原菌)の侵入を防いでいます。
また、手指などに黄色ブドウ球菌やMRSA(下記参照)、大腸菌などが一時的に存在することがありますが、これらは健康な人に感染を引き起こすことはありません。しかし、抵抗力の低下した人や、抗生物質を多量に投与された患者さまでは常在細菌のバランスがくずれ、病原菌が増殖し感染が起こります。
○院内感染と耐性菌
最近、テレビや新聞などで院内感染事例が報告されています。院内感染とは病院における入院および外来患者さまが原疾患とは異なり新たに病院内で罹患した感染症または、医療従事者が院内において罹患した感染症をいいます。
では、どのようにして感染が発生するのでしょう?
ヒトからヒト、物からヒトへと健康な人には感染しないような菌が、抵抗力の弱った人や抗生物質などを多量投与された人に感染しやすくなります。最近、多剤耐性緑膿菌や耐性セラチア菌による院内感染事例がマスコミで報道されていますが、これも抵抗力のない患者さまに感染を起こしたものです。主な耐性菌を以下に示します。
1、MRSA :メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
2、VRE :バンコマイシン耐性腸球菌
3、MDRP :多剤耐性緑膿菌
4、ESBL :基質拡張型βラクタマーゼ産生菌
5、PRSP :ペニシリン耐性肺炎球菌
6、BLNAR:βラクタマーゼ陰性ABPC耐性インフルエンザ菌
7、MDRTB:多剤耐性結核菌
8、メタロ型βラクタマーゼ産生菌 |
院内感染のほとんどは手を介した接触感染によって発生しています。感染経路には接触感染、飛沫感染、空気感染があげられます。
接触感染とは |
皮膚や手指を介して、抵抗力の弱った人へ感染する直接感染と人が触れる環境表面や医療器具などを介して感染する間接感染があります。 |
空気感染とは |
長時間空気中に浮遊する粒径5μm以下の粒子に付着した微生物による感染で空気の流れによって広く撒き散らされ、吸入されて広範囲に伝播されます。 |
飛沫感染とは |
粒径5μm以上の大きい飛沫粒による感染で咳、くしゃみ、会話、気管内吸引など、1mの距離で接する際に、伝播されます。 |
○感染管理
院内感染を発生させないためにはどうすればよいのでしょうか?
感染対策の基本は手洗いと標準予防策です。標準予防策とは全ての患者さまに対して行うもので、感染症であるかないかに関わらず血液、体液、分泌物、及び排泄物、損傷皮膚、粘膜を感染源として扱い、手袋、マスク、ガウン着用などで感染防止に努めることです。
また、細菌検査室は院内感染委員会の実務担当としてMRSAをはじめとする薬剤耐性菌の動向を提供しています。そして、院内感染管理チーム(ICT)の一員として感染制御医師(ICD)、感染管理看護師(ICN)、薬剤師とともに病棟ラウンド、学習会を行って院内感染対策に取り組んでいます。