細径フレキシブル胸腔鏡(直径5 mm)
当科では先が360度自由に曲がる直径
5mmの
最新式フレキシブル細径ファイバースコープ (上図) を新たに導入し、気胸や肺癌ほかの疾患に対して低侵襲な手術を提供しております。
1)胸腔鏡を用いた精密検査に関して
最近の画像診断の進歩により小型の胸部の異常陰影が検診などでよく見つかるようになっております。このような陰影に対して、当院ではこれまでの切除例における病理所見の詳細な検討結果を踏まえて、経過のみることの許される影とそうでない影との厳密な区別を行い、悪性の可能性が否定できないものに対しては積極的に胸腔鏡下での肺生検を行っています。安易な経過観察が許されない陰影が少なからず存在することを認識する必要があります。
2)当院における肺がんに対する胸腔鏡手術の位置づけ
悪性疾患に対する胸腔鏡下手術は現時点では腫瘍径が小さく、リンパ節に腫大がなく、胸膜浸潤のない早期と思われる肺癌に適応を厳格にしぼっております。胸腔鏡下で肺葉切除ないし区域切除を行う場合は、安全性の面から基本的に小切開をおいて手術をさせて頂いております。癌をリンパ節とともにしっかり取り除くこと(根治性)および安全性を最重要視しております。
3)縦隔腫瘍に対する低侵襲手術の実践
被包化され限局した状態であれば胸腺腫に対し胸腔鏡下での手術を行っております。また胚細胞性腫瘍と称される一群の腫瘍性縦隔病変においても成熟型奇形腫のような良性病変に対しては乳房下縁および腋窩の目立たない部位に3ヶ所ほどの小穴を設けて胸腔鏡下に腫瘍の摘出を行っております。
4) 難治性胸部悪性腫瘍に対する治療の取り組み
難治性と言われる進行肺癌、再発肺癌、悪性胸膜中皮腫などに対しても選択的に外科治療を含めた最新の集学的治療を実践し治療成績の向上に努めております。悪性胸膜中皮腫治療に関しては、標準治療というものが定まっていません。国内のみならず国外よりの情報網を維持し、現時点で最も有効性の期待できる治療の提供に努めております。
5) 当院における気胸手術
重度の肺気腫のある症例では小開胸併用がむしろ安全の場合がありますが、通常の自然気胸に対しては胸腔鏡下での手術を原則とし, 痛みの少ない外科医術の提供に努めております。気胸の場合、術後の再発がなお問題でありますが、空気漏れの原因である嚢胞を自動縫合器にて切除した際の切除面近傍よりの新生嚢胞が主な原因のひとつと考えられております。当院では、身体に同化する吸収性の薄いシートを切除面に被覆カバーすることで術後再発の防止を試みております(写真)。被覆に際しては、生体糊のような血液製剤は使用せずに手術を行わせて頂いております。気胸手術は安易に考えられがちですが、気胸手術においても治療概念や治療技術は日進月歩であり、“呼吸器外科専門医”の所属する認定施設で加療を受けることが、この病気と闘う大切な第1歩と考えます。
6) 緩和医療での取り組みと姿勢
病気を治すという治癒を目的とした積極的治療に反応しなくなる、あるいはそれがむしろ不適切な治療選択肢となる場合があります。例えば癌その他の疾患による慢性的な疲弊・疼痛などであります。そのような病態下において、医学的な知識に基づいて身体的苦痛除去に努めてゆくことはもちろんですが、病棟看護師, 緩和医療チーム, がん相談支援室および地域医療連携部門との協力体制の中で患者さんを支えることのできる包括的な支援に取り組んでおります。かけがえのない大切な人生における質的な変化の中で“不幸”でなく、“幸福な病人”と思えるような加療と支援の提供が目標であります。