脳神経外科を脳の手術をする怖い外科と思っておられる方はおられませんか？何せ科名に"神"が入っているのは、脳神経外科と神経内科、神経精神科だけですから。欧米ではNEURO (神経) SURGERY(外科) と言って全身の神経を外科的かつ内科的にも治療していますが、科名を標榜するときに欧米の直訳である"神経外科"では誤解を招きやすいということで、"脳神経外科"としたそうです。
当科は1968年、金大に先んじて北陸で最初に開設された歴史ある診療科です。

脳神経外科は脳の病気だけを扱っているのではなく、全身の神経の病気を扱う診療科です。脊髄・脊椎の手術はもちろん、末梢神経、視神経や眼窩内病変の手術（眼科では行えません）も行っているのです。ちなみに米国の脳神経外科医の半分は腰椎を、1/4は頸椎を（つまり3/4が脊椎・脊髄を）治療しており、脳疾患を扱う脳神経外科は1/4だそうです。症状からは他の診療科（神経内科、精神神経科、整形外科、耳鼻咽喉科、眼科、血管外科など）と重複することもありますが、私たちの診療目的は神経異常によって生じる症状（全身の運動ならびに感覚麻痺、しびれや痛み、痙攣・手足の固まりやふるえ、意識や認知機能低下など）の原因究明と治療選択です。これらの症状がございましたなら、できる限り早期に脳神経外科専門医師をお尋ねください。

脳神経外科のイメージはすぐに頭を切られるとお思いの方もまだまだ多いのが現実かと思っています。私たち脳神経外科医は手術だけではなくお薬での治療も行っています。最近、循環器科や消化器内科でカテーテルや内視鏡手術が行われてきていますが、これは薬物治療だけではなく、直接、患部に到達して治療する外科治療の必要性が出てきていることの表われと考えます。脳神経外科は両方の治療技術をもっており、患者さまの症状や状態に合わせて最適な治療法を選択して幅広い治療が行える診療科なのです。実際、神経の病気は起きるのは一瞬でなかなか治りにくいのですが、早期に外科的治療をすることで治せるものが多くあります。（歯痛に対して鎮痛剤服用の内科的治療か、歯科手術という外科的治療か？あなたはいずれを選びますか？脳神経についても同様で、原因疾患に対して根治的手術が必要なこともあります。私たちはこの原因疾患を神経学的診察、画像診断などより探り、適切な治療を提供できると考えています。）

脳卒中は時間との勝負 (“Time is Brain”です、脳梗塞では発症3〜4.5時間以内) と言えます。わずかな神経症状でも突然に起きた場合は脳卒中を否定できません。このような神様からの警告を放置したため一生取り返しのつかないことになってしまった患者さんを、私たちは多く見てきています。脳神経外科医は脳梗塞に対して内科的な薬物治療 (tPAなどの血栓融解療法)だけでなく、他の多くの治療手段（カテーテルでの血栓融解、血栓除去手術）も持っており、これらを駆使して治療成績を上げています。また脳動脈瘤など、破裂してくも膜下出血を起こしてしまう前に未破裂の状態で予防的治療することで、くも膜下出血発症数が近年減少してきています。脳梗塞の予防的手術としては、バイパス手術･頸動脈内膜剥離手術だけでなく低侵襲の頚動脈ステント留置手術を行い、再発や症状進行を予防し治療成績を向上させています。発症前の予防的先行治療が大事です。

外科と言えば、何でも切られるとの誤解はすでに古いお考えです。たとえ外科的治療でも、私たちは患者さんに肉体的および精神的負担の少ない"低侵襲手術"を取り入れ、脳血管の病気に対して脳血管内手術（頭を切らずに、血管カテーテルを通して治療します）や人差し指頭ほどの小さな孔からの内視鏡手術や定位脳的手術を盛んに行っています。これもCTスキャンやMRIなどの"低侵襲診断装置"の発達によるものです。また石川県で3台目の手術用ナビゲーター装置を導入して安全な脳腫瘍摘出やパーキンソン手術（県外でなく県内の当院で行えば不都合時に緊急対応出来る利点があります）も行っています。今年より導入した、ハイブリッド血管造影装置は脳血管病変に対し全身麻酔下に血管内治療と観血的手術（開頭手術など）を同時に行える最新式の診断治療装置です。私たちが手術に使用する最新の手術用顕微鏡には、2年前より悪性腫瘍が赤く色づけされる装置や脳血管が蛍光で光る術中脳血管造影装置が取り付けられ、安全で確実な手術成績を患者さんに提供し続けています。当科では以上のように、整備された最新診断･治療装置を駆使した治療経験が豊富で、安全で低侵襲治療を提供させて頂いています。脳血管障害（脳卒中）、脳腫瘍（脳および眼窩内・頭蓋底腫瘍）、脊椎（ヘルニア）・脊髄疾患（脊髄腫瘍など）、先天奇形（水頭症、二分脊椎など）、顔面痛（三叉神経痛）・顔面痙攣（安易にボトリヌス使用せず当科に必ずご相談下さい）、手足のしびれや痛み（脊椎脊髄および末梢神経疾患など）、ふるえや手足の固縮（パーキンソン手術）などに対する治療を行っています。当院の脳神経外科は進化し続けているのです。

活動の詳細はスタッフ紹介の「経歴と業績」をご覧下さい。