脳神経外科



  当科の概要

診療内容・特徴

脳神経外科専門医24時間365日体制で診療しています。頻度の高い脳血管障害、外傷に加え、脳腫瘍、正常圧水頭症、脊椎脊髄および末梢神経疾患、顔面のけいれんや痛み(三叉神経痛)、脳卒中後の痛みやこわばり(神経障害性疼痛、痙縮)などに対する治療も積極的に行なっています。
(お時間がございましたら、当科の紹介記事を参照ください。医心60-金沢医療センター脳神経外科
外来は曜日ごとの担当制で、基本的に午前中のみです(下記)。水曜日は金沢大学の出張医師が担当します。午後は手術、検査、処置をしていますが、緊急時はまず電話で相談ください。

部長・医長紹介

氏名 職名 専門分野 主な資格等 外来日
藤沢 弘範 部長・科長 脳神経外科全般(頭のてっぺんから爪先まで、下垂体は除く) 脳卒中専門医・指導医
脊椎脊髄外科専門医
認知症専門医・指導医
金沢大学臨床教授
月・木
中島 良夫 医長 脳神経外科全般、特に脊椎脊髄末梢神経疾患、痛みの治療(ペインクリニック) 脊椎脊髄外科専門医
脊髄内視鏡下手術技術認定医
ペインクリニック専門医
火・木


診療実績

入院は年間400人前後、手術は160件前後です。近隣に大病院、高度機能病院が多いことから、当科は高齢者、認知機能低下患者の脳卒中、外傷が多くを占めています。



  外来診察

■外来は曜日ごとの担当制で、基本的に午前中のみです(下記)。
■水曜日は金沢大学の出張医師が担当します。午後は手術、検査、処置をしていますが、緊急時はまず電話で相談ください。

1診 藤沢 中島 当番医 藤沢 正村
2診   正村   中島  
専門外来   ペインクリニック   ペインクリニック  

  スタッフ紹介

当科のスタッフを紹介します。
部長 藤沢 弘範(ふじさわ ひろのり)
略歴 1988年(昭和63年) 金沢大学医学部卒
資格 医学博士
脳神経外科専門医
脊椎脊髄外科専門医
脳卒中専門医・指導医
日本認知症学会専門医・指導医
日本頭痛学会専門医
がん治療認定医
専門分野 脳神経外科全般(頭のてっぺんからつま先まで。特に脳腫瘍、頭蓋頚椎移行部や脊髄の難しい病気)
業績 業績のページへ
活動内容 医心 60号

医長 中島 良夫(なかしま よしお)
略歴 昭和61年金沢大学医学部卒
資格
医学博士
脊髄外科認定医
脊髄内視鏡下手術技術認定医
日本脳神経外科専門医
ペインクリニック専門医
専門分野 脊椎脊髄・末梢神経疾患、脳神経外科全般
ペインクリニック

  各分野、病気の診療内容


脳血管障害
脳血管障害(脳卒中)では一次脳卒中センター(t-PAが常時使用可能な施設、PSC)および日本脳卒中学会教育研修病院として機能し、血栓回収術が必要な場合は金沢大学脳神経外科より専門医を招聘し、緊急カテーテル治療を行なっています。MRI(1.5および3.0テスラ)が常時稼働し、24時間血管内治療に対応可能です。クモ膜下出血をはじめとする出血性脳卒中に対しても常時手術が可能です。

ここからは少し詳しい解説です。
① クモ膜下出血
約9割が脳動脈瘤の破裂が原因です。ケガで生ずる外傷性クモ膜下出血は別物です。瘤の位置、大きさ、形、首根っこの太さで、開頭クリッピングが良いか、血管内(カテーテル)治療が良いか判断します。より根治性(1回の治療で済む)の高い治療法を選択します。後頭部〜頚部の瘤は血管内治療が第一選択です。治療が進歩した現在でも、3人に1人が死亡する怖い病気です。



② 脳出血
原因は高血圧が大多数です。血液サラサラ薬大量飲酒(アルコール換算で週450g以上)、血液疾患、がんが原因の場合もあります。近年では脳出血のうち約3割が血液サラサラ薬(抗血栓薬)内服中の発症で、抗血栓薬の適正使用が問題になっています。出血の大きさ、部位、患者さんの容体で手術の必要性を検討します。当科では全身麻酔や手術体位の負担軽減の目的で、局所麻酔下の内視鏡血腫除去を積極的に採用しています。大脳深部、小脳も対象で、手術時期は当日から1週間程度が目安です。高齢者でも治療が可能になり、リハビリの早期開始、転院に繋がっています。


③ 脳梗塞
どのタイプ(病型)か、いつの発症かで治療法が全く異なります。当然、それに応じて経過、結果(予後)が変わってきます。
t-PAはタイプに関係なく発症4.5時間以内、または発症時刻不明でもMRIで一定の条件(FLAIR画像でまだ高信号化していない)を満たせば投与可能です。条件が緩和された現在でも使用頻度は約10%です。
(機械的)血栓回収術は発症8時間以内、または症例ごとに検討し発症24時間以内のアテローム血栓性脳梗塞または心原性脳塞栓症に行われますが、アテローム性では元々動脈が狭くなっている(狭窄)ので再開通率はあまり良くありません。本治療が普及した2015年以降、後遺症と死亡率がぐっと減りました。この効果は80代、90代の超高齢者でも確認されています。

ラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞では入院後にオザグレルアルガトロバンの点滴、抗血小板剤2剤の内服を開始します。約1ヶ月後には1剤に減量します。大事なことは血圧を130未満に維持することです。血圧管理が悪い場合、脳梗塞再発予防効果よりも、自然脳出血の危険性が高くなるためです。
抗血栓薬2剤以上を継続して内服している方は、心臓の病気や足の血栓症を併せ持つなど何か理由があるはずです。担当医にご確認ください。

ラクナ梗塞
原因のほとんどは高血圧、糖尿病、脂質異常などの生活習慣病や喫煙です。MRIの特殊撮影で自然小出血(かくれ脳出血、微小出血)を頻回に起こしていることが近年の研究でわかっています。軽症脳梗塞ほど逆に脳出血のリスクが高い現実を理解する必要があります。血圧130未満にすること、抗血小板剤を1剤に減らすことで出血のリスクが下がります。


アテローム血栓性脳梗塞
ラクナ梗塞を起こす動脈(穿通枝)よりも太い血管の障害で、範囲がやや広くなります。原因はやはり生活習慣病や喫煙です。脳に入ってすぐの動脈(主幹動脈)や頚動脈、時には大動脈が原因になります。ラクナ梗塞で述べたお薬でまず治療(保存療法)し、予防には頚動脈内膜剥離術バイパス術頚動脈ステント留置など血行再建術を行います。



心原性脳塞栓症
心臓内の血のかたまり(血栓)が脳に飛んで生ずる広範囲で重症の脳梗塞です。約8割は心臓の不整脈(心房細動)が原因で、80代になると約1割の方がこの不整脈になると言われています。社会の高齢化につれて増加傾向です。心臓の収縮が不規則になり脈が飛ぶので、自分の手首で動脈を触れれば簡単に発見できます。是非試してください。異常を感じたら循環器内科を受診ください。ガイドラインに従い強めの血液サラサラ薬(抗凝固薬、DOACかワルファリン)を開始します。



DOAC(直接阻害型経口抗凝固薬)
血液凝固因子に直接作用する内服薬で、現在4種類が使用可能です。それぞれに飲み方(1日1回または2回)、剤形、用量があるので専門医の指導に従い正しく服用することが大切です。飲み忘れると数時間で効果が薄れ脳梗塞の危険性が高まります。効果はワルファリンとほぼ同等で、メリットはいくつかありますが、最大のメリットは自然脳出血が半減し、より安全になったことです。

減圧開頭術
抗凝固薬の使用の有無にかかわらず、範囲が広いと梗塞内に自然脳出血を生じたり、ひどく腫れたり(脳浮腫)します。腫れ止めの点滴で対応困難な場合は、救命目的に頭蓋骨を大きく外す本手術が必要です。骨は一時的に腹部の皮下に保存し、脳の腫れが引いた約1ヶ月後に手術で戻します。



脳腫瘍
脳腫瘍の頻度は年間1万人に1〜2人程度で、肺がんや乳がんなど全身のがんと比べると2桁近くも少なく、それ自体が希少がんです。しかしタイプ(病理)は百数十種以上あり、脳とういう臓器特性もあって診断、治療が非常に難しいです。診断は世界保健機関 (WHO) 国際癌研究所の教科書(“バイブル”)に基づき、治療は日本脳腫瘍学会のガイドラインに沿って行われます。
当院は高齢者、がん拠点病院として全身がんの患者が多く、髄膜腫、神経膠腫(グリオーマ)、悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍が主な対象になっています。
悪性腫瘍は院内のキャンサーボードISARCで各科の専門家と討議し治療します。



ここからは少し詳しい解説です。

①髄膜腫
脳を包む膜(硬膜)から発生する、約9割が良性の腫瘍です。1割はやや悪性で複数回の手術や放射線治療が必要になります。脳表近くに発生した場合は、手術で完治しますが、底部から発生した場合は、腫瘍を取り切れません。経過観察中に残存腫瘍が大きくなるようならば放射線治療(ガンマナイフ、ノバリスなど)を追加します。
中高年の女性に多く(男性の約5倍)、年単位で大きくなります。脳局所の圧迫兆候(頭痛、半身麻痺、言語障害など)やてんかん発作があれば手術をします。なければ経過観察が基本です。その場合でも、患者さんの年齢と腫瘍の大きさを勘案して、存命中に手術が予想されれば予防手術を行う場合があります。
まれに認知症患者で前頭部の大きな髄膜腫が発見される場合があります。部位的に脳局所兆候が出にくく発見が遅れるためです。高齢者で認知機能低下がある場合、少なくとも一度はCTやMRIでの画像評価が必要です。


②神経膠腫(グリオーマ)
脳の中、グリア細胞から発生する悪性腫瘍です。悪性度は4段階(WHOグレード)ありますが、高齢者ではほとんどが最も悪性、4段階目の神経膠芽腫(グリオブラストーマ)です。診断、治療の進歩した現在でも余命は約1年半です。高齢者では十分な治療をできないことが多く、余命はもっと短くなります。
腫瘍細胞はMRIで見えている範囲よりも遥か前方に侵入していますので、手術で取り切ることは困難です。手術でできる範囲の腫瘍をとって、放射線治療、抗がん剤治療を行うのが世界標準です。放射線治療は腫瘍よりやや広い範囲に約30回毎日照射、これに同期する形で少量の抗がん剤(テモゾロミド)を毎日服用します(初期治療)。退院後は外来で、増量した抗がん剤を月初めの5日間内服、残り23日を休薬するサイクル(年齢、状況を考慮して休薬期間は延長)を可能な限り継続します。再発時には手術や腫瘍栄養血管を障害する抗がん剤ベバシズマブの追加を考慮します。
悪性度グレード2のグリオーマ(乏突起膠腫など)は放射線や抗がん剤に良く反応して10年またはそれ以上の余命が期待できます。手術で最低限どのタイプか病理診断をすることは重要です。
診断、治療効果判定にはIDH変異1p & 19q LOHなどの遺伝子診断が有用です。当科では検査科、金沢大学と協力して遺伝子診断を行なっています。


③悪性リンパ腫
正式には中枢神経系原発悪性リンパ腫と言います。高齢者、がん治療などで免疫が低下した患者が多いため、近年増加傾向です。脳以外の身体各所にも悪性リンパ腫はできますが、脳と全身性では腫瘍の性質、治療法、余命が大きく異なります。脳の悪性リンパ腫は、眼球のリンパ腫を合併する場合があります。
半身麻痺や言語障害、てんかんなどの脳局所兆候で発見される場合もありますが、認知症で発症する場合がしばしばあります。治療が可能という意味で、高齢者認知症では否定しておくべき重要な病気です。
身体にやや負担のかかる抗がん剤治療と放射線治療を行うので、手術、生検術による病理診断は必須です。脳はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫がほとんどです。
全身性悪性リンパ腫の鑑別にPET-CTが重要です。
血液系のがんであり、治療は脳であっても全身性リンパ腫の治療で抗がん剤治療に精通している血液内科医師にお願いしています。再発の場合、放射線治療(全脳照射、20回程度)を追加する場合があります。
2020年に再発性、難治性の脳悪性リンパ腫に新たに分子標的薬チラブルチニブによる内服治療が可能になり、実臨床で効果を挙げています。がんと戦うための新たな武器、治療法を得たことになります。


顔面のけいれんと痛み
腫瘍や脳卒中、多発性硬化症などの脳神経内科の病気、末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺)後など耳鼻咽喉科の病気、歯科治療が原因の場合もありますが、ここでは脳内で動脈、まれに静脈やクモ膜が三叉神経や顔面神経を圧迫して生ずるタイプ(特発性)を説明します。
三叉神経痛、顔面けいれんそれぞれに内科的(保存的)治療、手術(頭蓋内微小血管減圧術)があります。当科では基本的にお薬(カルバマゼピン、ボトックス)による治療を開始し、効果が不十分な場合、完治を希望される場合に手術をお勧めしています。お薬で、あるいは自然経過でも改善しますし、命自体には関係しない病気ですので、じっくり考えて治療法を選ぶことが重要です。




ここからは少し詳しい解説です。

① 三叉神経痛
顔面神経痛の俗語と混同されることがありますが、正式には三叉神経痛です。アイスクリームを一気に食べて、キーンと頭痛がくるあの神経です。神経は脳から歯まで頭部顔面に広く分布しており、脊髄の上端(上位頚髄)で首の神経と繋がっていることもわかっています。
神経を圧迫する原因は上小脳動脈であることが圧倒的に多いですが、蛇行した脳底動脈静脈肥厚したクモ膜が原因のことがあります。MRIや造影CTでおおよその原因は特定できますが、極論的には手術で開けてみないと分かりません。
診断は痛みの範囲(頬、顎に多い)、痛み方(短時間で激しい、刺されたような)、誘発動作(食事、歯磨き、会話などがトリガー)の症状と、カルバマゼピンが特効的に効くことから診断できます。これらがない場合、三叉神経痛は否定的で非定型的顔面痛と呼びます。プレガバリンなどのガバペンチノイド、アミトリプチリン、デュロキセチンなどの抗うつ剤が有効な場合があり、試してみる価値があります。
カルバマゼピンが有効でも徐々に効果が薄れたり、めまい、ふらつき、肝機能障害、中毒性皮疹などの副作用が出た場合は手術が考慮されます。ここでも極論的に言えば、痛みがあって放置しても命には関係しないので、手術するかしないかを決めるのは患者さん本人です。

手術では耳の後ろに数センチの皮膚切開を置いて、五百円玉程度の小さな穴を頭蓋骨に開け、手術顕微鏡下に神経の圧迫を除きます。特殊な材料で血管を包んで、神経から離して脳を包む膜(硬膜)にくっつける場合が多いですが、無理な場合はスポンジのようなものを間に挟んで、動脈の拍動が神経に伝わりにくくします。痛みは直後から消失する場合が多いですが、焚き火の残り火が徐々に消えるように、時間をかけて少しずつ良くなる場合もあります。その間はカルバマゼピンを少量服用することになります。
入院は10日〜2週間です。問題なければ通院は1〜2回で終了します。


② 顔面けいれん
症状は似ていても異なる病気がいくつかあるので注意が必要です。目周囲のピクつきは寝不足などの正常、生理的な状態で誰にでも生じ得ます。目周囲だけのけいれんで眼瞼けいれんという眼科の病気があります。回復が正確に起こらないとベル麻痺後に顔面のピクつきを生ずる場合があります。脳神経内科が扱う不随意運動症でMeige症候群がありますが、この場合は両側性で目を開けられなくなります。従って当科で扱うのは一側性で、ピクつきが目周囲だけでなく口周囲や頚部にまで及ぶタイプです。顔面のピクつきだけでなく、ポンポンと異常音が同時に聞こえる場合があります。これは鼓膜の緊張を調節する顔面神経の枝(アブミ骨神経)が同時に刺激されるためです。
治療はボトックス注射手術です。抗てんかん薬、安定剤は少し効くことがあるので試して良いかもしれません。

ボトックス治療は、本来猛毒であるA型ボツリヌス毒素を、少量ずつ薄く顔面筋に注射して軽い顔面麻痺を作る治療法です。美容外科で顔のシワ伸ばしにも使われます。講習を受けた医師のみが施注可能です。多く打ちすぎると目が閉じない、口からものがこぼれるなど麻痺が出て、生活に支障をきたします。また打ち方が弱いと効いている期間が短くなります。さじ加減が大切で、効果には個人差はありますがだいたい3~6ヶ月です。
当科では患者さんから効果の強弱の細かな要望を伺い、出来るだけそれに沿う形で施注しています。注射が嫌になったら手術を考慮ください。

手術は先の三叉神経痛の手術とほぼ同様ですが、皮膚切開、頭蓋骨を開ける位置はやや下方になります。原因の動脈は前下小脳動脈、後下小脳動脈が多く、もっと太い椎骨動脈の場合もあります。動脈から脳幹に向けて細い枝が出ていることが多いので、神経を移動させる方法よりも、神経と血管の間にスポンジ様のクッションを入れる手術になる場合が多くなります。
入院は10日〜2週間です。問題なければ通院は1〜2回で終了します。


正常圧水頭症
水頭症は脳室が拡大し症状を来す病気ですが、原因はさまざまです。脳神経外科ではクモ膜下出血、脳出血、外傷後などに多く経験します。ここでは60歳以上の方に、先行する病気がなく、自然発生的に生ずる特発性正常圧水頭症 (iNPH) を扱います。
症状は歩行障害が先行し、徐々に認知機能低下、尿もれ(失禁)の三徴を来す病気です。認知症の症状に似ていますが、iNPHはシャント術で治療できるので、治せる認知症 treatable dementia として有名です。また、2〜3割の方でアルツハイマー型認知症が合併することも知られています。
歩行障害は小股で両足を広げて歩くのが特徴です。ひどい場合は、バランス障害で椅子から立ち上がれませんし、手を引いても歩けません。半身麻痺がなく、力があるのに、です。
診断は先の三徴と、頭部CTまたはMRIで特徴的な所見があれば容易です。
認知症かな、と思ったら一度は脳の画像検査を受けることをお勧めします。

ここからは少し詳しい解説です。

①特発性正常圧水頭症 (iNPH)
地域住民の約1%が本症を持つとされ、世界的にみて日本で研究、治療が先行している病気です。2020年に「診療ガイドライン 第3版」が発刊されており、これをもとに診断、治療をします。
バランス障害を主体とする歩行障害と認知機能の低下、CTやMRIでクモ膜下腔の不均衡な拡大を伴う水頭症 (DESH) があれば典型的で診断に迷うことはありません。後に述べるタップテストをしないで手術をお勧めします。病初期では症状、画像が揃わない場合が多く、またアルツハイマー型認知症を合併する方も居て診断に迷うので、その場合はタップテストをします。
DESHはあるが無症状という方も居られ、このような病態をAVIMと呼びます。iNPHとほぼ同数居ると推定され、時間経過で約半数の方がiNPHに移行することも知られています。脳室拡大を指摘された方は、無症状でも定期的な画像フォローが必要です。



②タップテスト(髄液排出試験)
腰部から針を刺して(腰椎穿刺)、脳室に溜まった水(脳脊髄液)を30〜40ml抜いて、症状がよくなるかを判断する試験です。抜く量はわずかですが、実は針を刺した部位の皮下に髄液が持続的に少量漏れており、シャント術に似た状況を作り出しています。太い針で穿刺した方が漏れが大きいので判断に有利ですが、その分痛いので当科では21ゲージの太さを用いています。この試験で少しでも改善する症状(歩行が改善する場合が多い)があれば、シャント術が有効と言えます。
本試験は外来で実施して、帰宅後ご家族、介護関係者に経過観察をしてもらい、1週間後くらいに再診して改善の有無を伺うことで判断可能です。
高齢者は腰椎が変形している方が多いので、入院して透視下に腰椎穿刺を実施する場合もあります。その場合、リハビリで歩行や認知機能の改善を調べます。1週間くらいの入院が必要です。



③ 脳血流検査
所要時間や費用の面から入院してからすることが多いです。iNPHでは特徴的な画像(CAPPAHサイン、河童サイン)が得られ、診断の参考になります。また、アルツハイマー型認知症では特定領域の血流が減るので、その合併を判断する材料にもなります。

④ シャント手術
入院して全身麻酔下に手術を行います。時間は1〜2時間です。植え込むチューブ(カテーテル)は髄液の流れやすさを調節できるシステム(圧可変式)で、患者さんに合った圧を設定します。圧調整に術後2週間程度が必要で、その間にリハビリをしていただきます。システムはMRI撮影で設定圧が狂うので、専用の器械で圧の再設定が必要になります。退院時に、シャントメーカー、設定圧を記載したカードを渡しますので、無くさないでください。
髄液が流れるルートをどのように作るかで、以下の3パターンがあります。歩行が期待できる方(長期臥床にならない方)、太っていない方、腰椎変形が軽い方は、LPシャントで治療するようにしています。頭部剃毛が不要で、キズがほぼ下着に隠れるので、患者さんからは喜ばれています。VAシャントは他の病気で体内にバイ菌が入ると抜去せざるを得ない場合があるので、最終手段と考えています。





脳卒中に代表される脳の病気や脊髄の病気を患うと、数ヶ月、数年を経てつっぱり(痙縮)が出現し、それだけで日常生活に支障をきたす場合があります。麻痺側の腕が肘や手の関節で曲ったまま伸びなかったり、股関節が内側に向いて、着替えやおむつ交換がしづらくなります。上肢や下肢の痙縮に対し、ボトックス治療を行っています。「顔面けいれん」の項で説明したのと同様に、A型ボツリヌス毒素を一定量筋肉に注射して、3〜6ヶ月程度軽く麻痺させる治療法です。
また、バクロフェンはつっぱりを和らげる作用があり、古くから内服薬として用いられてきました。現在では効果をより確実にするために、皮下に埋めたポンプから本薬を脊髄クモ膜下腔に持続的に投与して、つっぱりを和らげる治療法(ITB治療)が開発されています。日本ではまだあまり普及しておらず、症例数は数千レベルに留まりますが、米国ではこの10倍以上治療されています。バクロフェンが有効か否かは、一度髄腔内に試験注射(スクリーニング)をして判断します。有効性が確認でき、患者さんの希望があれば持続ポンプ植込みを行います。北陸で施術可能な施設は数カ所で、当科はその数少ないひとつです。

痛みやしびれ、つっぱりの治療
脳卒中後や脊椎術後のやっかいな痛み(難治性疼痛、神経障害性疼痛)、しびれに対し、神経ブロックや脊髄刺激療法を行っています。詳細はこちら

脊椎脊髄、末梢神経の病気
以下の病気を治療しています。まず投薬や神経ブロックなど切らない治療(保存療法)を行い、効果がなければ顕微鏡手術を行なっています。必要時にインプラントを用いて固定術を併用しています。
● 頚椎椎間板ヘルニアおよび腰椎椎間板ヘルニア
● 頚部脊柱管狭窄症および腰部脊柱管狭窄症
● 後縦靭帯骨化症
● 黄色靭帯骨化症および石灰化症
● 脊髄腫瘍(髄外、髄内)
● 脊髄空洞症
● 手根管症候群
● 肘部管症候群 など

特に、頭蓋頚椎移行部の病気、脊髄空洞症について
当科は頭蓋頸椎移行部の病気、脊髄空洞症の経験が豊富です。

頭蓋頚椎移行部とは、頭と首の付け根付近を指します。具体的には後頭骨最下端の大後頭孔(大孔)から第2頚椎(軸椎)までの範囲です。この部は様々な病気が発生し、しかも症状が多彩です。脳と頚椎の互いの端にあるため、画像検査で見落とされることが多く、また多様な症状から病気の部位を特定する(高位診断と言います)のは困難です。脳を扱う医師、脊椎を扱う医師が互いに不得手とする領域です。
比較的多いのはキアリ奇形環軸椎亜脱臼で、時に環軸椎回旋位固定や遅れて発見された大きな腫瘍、血管奇形(動静脈瘻が多い)に遭遇することもあります。
キアリ奇形は脊髄空洞症を伴うことが多く、診断が遅れると手術しても腕にしびれや痛みが残ります。空洞とは名ばかりで、中にはお水が溜まっています。脳で言う水頭症の脊髄バージョンと考えるとわかりやすいです。





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