血液のトリビア |
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血液疾患に関してのちょっとした豆知識を紹介 |
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■第1回:サラセミア(thalassemia)
世界史を勉強した人なら「サラセン帝国」という国名を聞いたことがあると思います。その昔、ヨーロッパ人は地中海に面した北アフリカの地域をサラセンと呼んでいたため、この名称が付いたとされています(現在はイスラム帝国と呼ばれるようですが)。実は、血液の病気の中にこの名前にちなんだものがあります。それは「サラセミア(地中海貧血)」という病気で、地中海沿岸の地域に多い病気のためこの名前が付けられました。サラセミアは遺伝性の病気で、赤血球内のヘモグロビン(血色素)の合成障害によって貧血となります。既述したように地中海地方に多い病気ですが、日本をはじめとする東アジアにもその病気の人はいます。採血データでは、小球性(= 一つ一つの赤血球が小さくなる)で低色素性(= 一つの赤血球に含まれるヘモグロビンの量が少なくなる)の貧血となります。この小球性低色素性を呈する貧血ですが、その多くは鉄欠乏性貧血です。この鉄欠乏性貧血ですが、外来でよく診る貧血で、特に女性に多いものです。ですから、血液を専門としていない医師も鉄欠乏性貧血はよく知っておられると思います。鉄分の多い食事(レバー、ほうれん草、小松菜…)を摂ることが大切で、実際の治療では、鉄製剤の内服または静脈注射となります。
と、ここまで長々と書いてきましたが、このサラセミアと鉄欠乏性貧血ですが、採血上「小球性低色素性の貧血」となるため、その鑑別(区別)には意外に苦労するのですが、それ以上にサラセミアという病気が頭に思い浮かぶことが少なく、「小球性低色素性の貧血 = 鉄欠乏性貧血」と考えてしまいがちです。そのため、本当はサラセミアであっても鉄欠乏性貧血と診断し、鉄欠乏性貧血の治療を行ってしまうことがあるようです。サラセミアなら鉄剤では貧血は改善しませんので、その時点で「これはおかしい?」となるのです。
皆さまの中で「鉄欠乏性貧血と言われ、鉄剤の治療を受けているのに全然よくならない」という人がおられましたら、血液専門の医師の診察を受けた方がよろしいと思います。もちろんこのYoppyの外来に来てもらえるならwelcomeですよ!もちろんその他の貧血でお困りの方もOKです。
以上 Yoppy(= 吉尾伸之)からでした。今後も続きます。