<冠動脈疾患>
冠動脈(かんどうみゃく)とは
心臓は生まれてから死ぬまで全身に血流を送り続けるポンプとして機能する臓器です。成人の場合、1分間に60~100回、1日ではおおよそ10万回、休みなく働き続けます。そのため、血液を介して大量の酸素とエネルギーが必要となり、それを心臓(心筋)に供給する血管が「冠動脈」です。冠動脈は心臓を取り囲むように心臓の表面を走行しています。
血管の内側にコレステロールを中心とした油かすなどが蓄積することを「動脈硬化」、蓄積したものを「プラーク」と呼びます。プラークは血管壁に蓄積するだけでなく、経過で血管内腔側に破れることもあれば、石のように固くなる(石灰化)こともあります。動脈硬化は加齢にともない生じるものですが、喫煙・糖尿病・高血圧症・脂質異常症などが増悪因子とされています。
狭心症(きょうしんしょう)とは
心臓の血管である冠動脈も血管であることから、加齢や増悪因子の影響により血管の内側にプラークが蓄積します。プラークが蓄積し血管内腔を狭めていくと、心臓(心筋)が必要とする酸素・エネルギーの需要と、供給される血流量のバランスが崩れる(虚血)ことになります。虚血により、労作時など血流需要が増大するときに胸が締め付けられる感じや、息切れなどの症状が生じる病気が「狭心症」です。無意識に労作を避ける行動をとる場合や、糖尿病などの影響で痛みを感じにくくなっている場合、無症状であっても検査にて狭心症と診断されることもあります。
狭心症の診断は、症状が安定している場合には外来で施行可能な検査(冠動脈の造影CT検査、運動負荷心電図検査、核医学検査など)により、冠動脈の形態評価や虚血の診断をおこないます。追加の精査が必要になった場合には入院での「カテーテル検査(冠動脈造影検査)」をおこないます。ただし症状が不安定な場合は冠動脈造影検査を先行する場合もあります。
この冠動脈造影検査は、局所麻酔で手または足の付け根のから、筒状の管であるカテーテルを血管にそって冠動脈の入口まで挿入し、造影剤を冠動脈内に流すことで、血管内腔の形態を透視画像で確認する方法です。通常は30分程度で終了する検査です。冠動脈造影検査の結果から、専用のワイヤーを用いて冠動脈内の圧測定をすることで虚血を判断する「冠血流予備量比検査」が必要となる場合もあります。当科では虚血診断をしっかりおこなうことで、不必要な治療介入を減らし、予後の改善に寄与できるよう努めています。
狭心症の治療としては薬物療法のほかに、循環器内科のおこなう「カテーテル手術(経皮的冠動脈形成術)」、および心臓外科がおこなう「冠動脈バイパス手術」があります。
一般的なカテーテル手術の流れは、検査と同様に冠動脈の入口までカテーテルをもっていくところまでは同じです。そしてプラークで狭窄した血管に対して、細いワイヤーを通過させ、風船で拡張、多くの場合は金属性のステントを留置して血管の狭窄を改善する治療方法となります。またプラークが石のよう(石灰化プラーク)に固くなり風船治療だけでは治療困難な場合は、血管内の石灰化プラークをドリルで削る特殊な治療をしています。通常は1時間程度の治療ですが、特殊な病変の場合はそれ以上の時間がかかることがあります。一般的な狭心症の予定手術の場合、当院では3泊4日の入院となります。
カテーテル手術は局所療法であるため、たくさんの病変がある場合は一度ですべてを治療できるバイパス手術の方が適していることがあります。どちらの治療が患者さんにとってよりよい治療であるか判断するため、当院ではカテーテル手術をおこなう循環器内科とバイパス手術を行う心臓外科が緊密に連携を取りあい、より適切な治療法を提案しています。
急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく)とは
「急性心筋梗塞」は、冠動脈に蓄積したプラークが内腔側に破れ、そこに血液の塊である「血栓」が集まることで突然、冠動脈を閉塞、血流が途絶えることで、心筋が酸欠になり壊死してしまう病気です。急性心筋梗塞は多くの場合じっとしていても胸の締め付け感や冷や汗、急激な息切れなどの症状が生じます。また心筋が壊死することで心臓のポンプ機能が低下し、結果的に命に係わる病気であり、病院での一刻も早い治療が必要になります。そのため急性心筋梗塞と診断した時点で緊急治療適応時間内であれば、一刻も早い血流再開が命を救うためには重要です。救急部と連携することで、診断した時点で可能な限り早く冠動脈カテーテル検査・手術に向かえるよう日々努めています。また当院は夜間・休日であっても24時間、循環器内科医もしくは心臓血管外科医が院内に常駐する体制をとっており、急性心筋梗塞にすばやく対応できる体制を整えています。
発症から時間の経過していない急性心筋梗塞の場合は、すぐに施行が可能なカテーテル手術をおこないます。治療方法は狭心症と同じ流れとなり、血流が途絶えた冠動脈に対して血流再開の治療をおこないます。通常1-2時間で治療ですが、複雑な病変の場合はそれ以上の時間がかかることもあります。またカテーテル手術での治療が不可能な病変の場合は、バイパス手術を施行することもあります。
急性心筋梗塞では心筋が一部壊死することから心臓のポンプ機能が低下してしまいます。そのため血流再開の治療後も薬物治療に加えて心臓リハビリが必要になります。一般的な急性心筋梗塞の場合、当院では2週間の入院となりますが、心臓の損傷の度合いなどによってはさらに入院期間が延長することがあります。