心臓血管外科



  心臓血管外科

 

部長・医長紹介

松本 康

血管病センター外科系診療部長  
松本 康

氏名 職名 専門分野 外来日
松本 康

血管病センター部長

金沢大学医薬保健学域医学類臨床教授(学外)、心臓血管外科学会評議員、血管外科学会評議員、脈管学会評議員、発汗学会評議員、循環器学会北陸支部評議員、心臓血管外科学会国際会員、心臓血管外科専門医,循環器専門医、胸部外科学会指導医、外科学会認定医・専門医、脈管専門医 火・木
笠島 史成 部長 血管外科学会評議員、脈管学会評議員、心臓血管外科専門医、脈管専門医、消化器内視鏡学会専門医、胸部外科学会認定医、消化器外科学会認定医、外科学会指導医・専門医 火・木
池田 知歌子 医長 胸部外科学会 評議員、心臓血管外科専門医、外科学会専門医・認定医、日本循環器学会循環器専門医、脈管専門医、胸部外科学会女性医師の会 会員 火・木



診療内容・特徴

【心臓外科】

主に成人心疾患を対象に手術を行っており、低侵襲手術が特徴です。心臓を動かしたまま人工心肺を使用せずに手術し、負担を最小限にとどめるOPCAB(オプキャブ)を数多く行っています。また弁膜症や不整脈手術にも心拍動下手術を導入し低侵襲化を進めており、特に僧帽弁疾患に対する弁形成術を積極的に行っています。また2018年からは心房細動という不整脈患者さんの心原性脳梗塞を防ぐため血栓の製造工場となっている左心耳を内視鏡を使って切除する手術を北陸で初めて行っています。


【血管外科】

低侵襲治療を積極的に導入し、大動脈瘤には胸や腹部の切開が不要なステントグラフト内挿術を、2021年8月末現在胸部と腹部を合わせ400例以上に行って来ました。閉塞性動脈硬化症は血管内治療を最優先し、下肢静脈瘤には2泊3日の入院加療、透析用シャントは外来手術も行っており、生活の質の改善と共に再発防止に努めております。

 

主な対象疾患

【心臓外科】

1. 狭心症・心筋梗塞

2. 心臓弁膜症

3. 心臓と他の血管疾患の同時手術

4. 不整脈(特に心房細動)に対する根治手術

5. 心原性脳梗塞を予防する内視鏡的左心耳切除術

 

【血管外科】

1. 大動脈瘤(胸部、胸腹部、腹部)

2. 閉塞性動脈硬化症

3. 急性動脈閉塞、血栓症

4. 下肢静脈瘤

5. 内シャント手術(透析)



代表的な手術や治療件数

【心臓外科】

代表的な手術:心拍動下冠動脈バイパス術、弁置換術、弁形成術、心房細動手術、胸部大動脈瘤手術、急性大動脈解離手術など

 

2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
症例数 53例 54例 51例 41例 43例 34例
手術死亡 0例 0例 0例 0例 0例 0例

 

【血管外科】

代表的な手術:胸部・腹部大動脈瘤(ステントグラフト)、閉塞性動脈硬化症手術(経皮的血管形成術)、静脈瘤手術、透析用ブラッドアクセス治療など、血管内治療を含む

 

年/術式 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
胸部ステントグラフト 21例 18例 26例 20例 16例 8例
AAA(開腹+SG) 20例 37例 41例 24例 30例 27例
閉塞性動脈硬化症手術 44例 67例 46例 59例 43例 43例
静脈瘤手術 75例 59例 53例 49例 45例 32例
透析シャント手術 76例 97例 78例 92例 108例 103例
その他 10例 5例 14例 13例 8例 4例



 

大動脈疾患専門外来

当科では大動脈瘤や大動脈解離などの大動脈疾患を低侵襲(体に負担が少ないこと)に治療するため大動脈疾患専門外来を開設しております。胸部大動脈から腹部大動脈に至るすべての部位に発生した動脈瘤や大動脈解離の診断と最新の低侵襲治療を行います。該当する患者様をご紹介頂ければ幸いです。

心臓血管外科外来にて毎週木曜日午後に実施しております。
13:30~16:30(予約制となります)

詳細は大動脈疾患専門外来のページをご覧ください

 

なお急性大動脈解離は救急外来で24時間対応させて頂いております。

 

【お問い合わせ先】  石川県金沢市下石引町1番1号
           金沢医療センター地域医療連携室
           TEL 076-262-4161(代表) FAX 076-222-4188            E-mail:302-renkeishitsu@mail.hosp.go.jp

 

地域連携への取り組み、姿勢

当科では安全、確実で患者さまのQOL改善につながる低侵襲手術を推進することを基本方針として24時間体制で診療にあたっております。地域連携に対しては日常診療における積極的な情報交換や種々の地域連携行事を通じて、先生方と密接な関係を構築・維持したいと考えております。いつでもお気軽にご相談ください。

 


 

地域連携行事

■Face link in KMC

地域の先生方との合同カンファランス:月1回(最終火曜日19時より)

 

■血管病センター市民公開講座

患者さま、医療従事者全てを対象とした公開講座:年1回

  心臓血管外科の紹介



当科で取り扱っている病気は下記のように分類できます。
1.心臓疾患(虚血性心疾患、弁膜疾患、不整脈)など
2.大動脈疾患(胸部・腹部大動脈瘤、急性・慢性大動脈解離など)
3.末梢動脈の疾患(閉塞性動脈硬化症、バージャー病、動脈瘤など)
4.静脈疾患(静脈瘤)
5.その他の疾患

心臓や血管に関係する病気で悩んでおられる方は、お気軽にご相談下さい。


代表的な手術や治療件数

【心臓外科】

代表的な手術:心拍動下冠動脈バイパス術、弁置換術、弁形成術、心房細動手術、胸部大動脈瘤手術、急性大動脈解離手術など

 

2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
症例数 53例 54例 51例 41例 43例 34例
手術死亡 0例 0例 0例 0例 0例 0例

 

【血管外科】

代表的な手術:胸部・腹部大動脈瘤(ステントグラフト)、閉塞性動脈硬化症手術(経皮的血管形成術)、静脈瘤手術、透析用ブラッドアクセス治療など、血管内治療を含む

 

年/術式 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
胸部ステントグラフト 21例 18例 26例 20例 16例 8例
AAA(開腹+SG) 20例 37例 41例 24例 30例 27例
閉塞性動脈硬化症手術 44例 67例 46例 59例 43例 43例
静脈瘤手術 75例 59例 53例 49例 45例 32例
透析シャント手術 76例 97例 78例 92例 108例 103例
その他 10例 5例 14例 13例 8例 4例

大動脈疾患専門外来

当科では大動脈瘤や大動脈解離などの大動脈疾患を低侵襲(体に負担が少ないこと)に治療するため大動脈疾患専門外来を開設しております。胸部大動脈から腹部大動脈に至るすべての部位に発生した動脈瘤や大動脈解離の診断と最新の低侵襲治療を行います。該当する患者様をご紹介頂ければ幸いです。

心臓血管外科外来にて毎週木曜日午後に実施しております。
13:30~16:30(予約制となります)

詳細は大動脈疾患専門外来のページをご覧ください


なお急性大動脈解離は救急外来で24時間対応させて頂いております。

【お問い合わせ先】  石川県金沢市下石引町1番1号
           金沢医療センター地域医療連携室
           TEL 076-262-4161(代表) FAX 076-222-4188            E-mail:302-renkeishitsu@mail.hosp.go.jp


地域連携への取り組みと姿勢

当科では安全、確実で患者さまのQOL改善につながる低侵襲手術を推進することを基本方針として24時間体制で診療にあたっております。地域連携に対しては日常診療における積極的な情報交換や種々の地域連携行事を通じて、先生方と密接な関係を構築・維持したいと考えております。いつでもお気軽にご相談ください。

<地域連携行事>
■Face Link in KMC
地域の先生方との合同カンファランス:月1回(最終週火曜日19時より)

■ 血管病センター市民公開講座
患者さま、医療従事者全てを対象とした公開講座:年1回
  外来診察

 
一診 (手術日) 松本 (手術日) 松本 (手術日)
二診 笠島 笠島
三診 池田 池田
大動脈疾患専門外来   13:30~16:30

■月・水・金:手術日

■大動脈疾患専門外来
 大動脈瘤や大動脈解離などの大動脈疾患の診断と低侵襲治療を行うために開設された専門外来です

心臓血管外科外来にて毎週木曜日午後に実施しております。
13:30~16:30(予約制となります)

詳細はこちら

なお急性大動脈解離は救急外来で24時間対応させて頂いております。

【お問い合わせ先】  石川県金沢市下石引町1番1号
           金沢医療センター地域医療連携室
           TEL 076-262-4161(代表) FAX 076-222-4188            E-mail:302-renkeishitsu@mail.hosp.go.jp

  大動脈疾患専門外来


1)大動脈瘤と大動脈解離について

 大動脈瘤と大動脈解離を中心とする大動脈疾患の発症に関する詳細な全国統計は未だありませんが、年間発症数はこれまで 10 万人あたり約 3人前後とされてきました。しかし、最近のデータで、年間発症数は 10 万人あたり 10 人と急速に増加しており、石川県でも年間 100 人あまりが新規発症していることになります。発症年齢分布のピークは男性 70 歳代、女性70-80 歳代で、瘤破裂や解離による病院着前死亡は 61.4%に及び、入院後も含めると 24 時間以内に 93%が死亡します。最近の新型コロナ感染蔓延により受診控えが増加していますが、当科でも大動脈瘤で経過観察されていた、2 人の方が受診を延期されている間に破裂を生じ、その内、1 人が残念ながら死亡される事案がありました。また、大動脈解離は激痛を生じるのに対し、大動脈瘤は無症状であるため、検診や地域の先生方のエコーやCT による発見がいわば生命線となっておりますが、コロナ禍で、これが減少傾向にあり、現状を大変憂慮しているところです。危険度の高い病変としては、ご承知のように大動脈瘤と大動脈解離が挙げられますが、それぞれについて簡単に特徴をお示しします。



① 大動脈瘤

成人の大動脈の正常径としては、一般に胸部で 30 mm、腹部 で 20 mmとされており、壁の一部が局所的に(嚢状に)拡張した場合、または直径が正常径 の 1.5 倍(胸部で 45 mm、腹部で 30 mm)を超えて紡錘状に拡大した場合に「瘤」と称しています。また大動脈壁の 3 層構造が保たれるものを真性瘤、血管壁が一部破綻欠損し、その部分が血栓で覆われるものを仮性瘤と呼んでいます。
大動脈瘤の発生には大動脈壁の脆弱化が大きく関与し、原因として Behçet 病、高安動脈炎、Marfan 症候群のような遺伝性結合織疾患、粥状動脈硬化、炎症、感染が挙げられます。特に腹部大動脈瘤について、以前は動脈硬化が原因とされていましたが、他の閉塞性動脈疾患を合併しないことや LDL コレステロール値との相関がないこと,糖尿病が危険因子ではないこと、腹部大動脈 瘤に鼡径ヘルニアが合併しやすいことなどから最近は変性(degeneration)が病因とされています。さらに一部の大動脈瘤では、指定難病の IgG4 関連疾患が原因であることも解明されてきました(当科は厚生労働省の IgG4 関連疾患研究班に所属しております)。大動脈瘤は胸部、腹部とも大半が無症状であり、画像検査にて偶発的に診断されることが多いですが、胸部大動脈瘤では咳や息切れ、嚥下痛、嚥下困難、嗄声を、腹部大動脈瘤では持続的または間欠的な腹部拍動感や腹痛、腹部不快感を自覚することがあります。また瘤の圧迫により摂食時の腹満感から食欲低下を来すこともあります。一方で、大動脈瘤破裂または切迫破裂時には胸部・腹部・背部・臀部などに急激な痛みを生じることが多く、破裂例ではバイタルサインの崩れを生じます。 診断には CT が有用ですが、胸部大動脈瘤では健診時の単純 X 線写真で、腹部大動脈瘤では超音波検査で発見され(右図)、ご紹介頂くこともしばしばあります。



 


② 大動脈解離

大動脈解離(下図)とは「大動脈壁が中膜のレベルで 2 層に剥離し、大動脈の走行に沿ってある長さをもち 2 腔になった状態」と表現されます。大動脈壁内に血流または血腫が存在する動的な病態で、臨床的には、画像診断で明確に描出できる長さが少なくとも 1~2 cm 以上必要です。大動脈解離の臨床的病型分類は、①解離の範囲からみた分類、②偽腔の血流状態による分類、③病期による分類の 3 種類があり、とくに①に関連した Stanford 分類がしばしば用いられます(A 型:上行大動脈に解離があるもの、B 型:上行大動脈に解離がないもの)。発症から 48 時間以内に約半数が死亡するとされ、直接死因は 98.5%が大動脈破裂です。また上行大動脈破裂の結果として心タンポナーデとなるものが 86.6%と最も多いのが特徴です。急性大動脈解離の臨床症状には、解離そのものによって 生じる疼痛・失神と、解離が生じたことによって起こる続発症(合併症)があり、解離による続発症は、破裂・出血、 malperfusion(臓器灌流不全:心筋梗塞、脳梗塞、脊髄虚血、腸管虚血、腎不全、四肢虚血)、その他(大動脈弁閉鎖不全症、急性心不全、凝固異常と発熱、呼吸障害)の 3 つに大別されます。A 型解離では前胸部痛、 B 型解離では背部痛や腹痛が特徴的であり、痛みは解離の拡大とともに移動し、逆に解離の進展が止まると一時的に消退することもあります。一方で、急性大動脈解離の約 6%は無痛性であることも重要です。大動脈解離の診断には CT 検査は信頼性が高く非侵襲的であること、大動脈全体を評価できること、緊急に対応して短時間で検査できることから必要不可欠です。病型分類(進展範囲、偽腔の血流状態、エントリー部の同定)の診断に加え、合併症(破裂、心タンポナーデ、malperfusion など)の有無を診断する上でも重要です。




2)治療法の選択:手術適応となる危険な動脈瘤とは


①大動脈瘤

大動脈疾患に対する治療は病期によって変化し、ある病期においては内科治療が中心となりますが、一定の病期に進行すれば侵襲的治療が必要となります。手術適応前は、病変の進行予防と併存疾患の悪化を防ぐことが最大目標となり、病期が進行すれば、画像検査を用いた定期的な観察により侵襲的治療のタイミングを逃さず、専門チームで協議の上で適切な手術方法を選択し、患者様を大動脈関連死から守る必要があります。以下に胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤それぞれの診断・治療カスケードを示します。実臨床では胸部・腹部大動脈瘤いずれもほとんど無症状で、その診断に至ることは珍しく、破裂症例の大多数が救命不能であることから、いかにして無症状時にスクリーニングを行うかが重要になります。例えば腹部での拍動性腫瘤触知は、簡便に行える有用なスクリーニングの一つですし。大動脈瘤の罹患率が高くなる 65 歳以上の男性や 65 歳以上の喫煙女性、第一度近親者に家族歴を有する方に対しては、エコー検査や CT によるスクリーニングを積極的に考慮すべきです。CT 検査を行い、胸部は最大短径 45mm 以上、腹部は 30mm 以上で診断に至り,侵襲的治療の適応は、①胸部・腹部とも最大短径で 55 mm 以上、(腹部は女性 50 mm 以上)が推奨されていますが、年齢や体格、性別や動脈瘤の形態、拡大速度によって適応径未満でも侵襲的治療を考慮する場合があります。実臨床ではいずれも 50mm(女性 45mm)程度から破裂する例もしばしばみられるため、ガイドライン推奨よりも 5mm ほど小さめから治療を行っています。また、②瘤径が小さくても形態が嚢状瘤の場合には破裂のリスクが高いとされるため、紡錘状の場合よりも早期に手術適応とします。さらに一般的な瘤径拡大速度は 1.0~4.2 mm/年ですので、③瘤径が半年で 5 mm 以上増大する場合は破裂のリスクが極めて高くなり、侵襲的治療の対象とします。




② 大動脈解離

急性大動脈解離を疑う場合には、素早く身体所見、バイタルサインをとり、血行動態が安定していればすぐに画像診断を行います。心電図による心筋虚血の有無、心エコー検査による大動脈内解離フラップ、大動脈弁閉鎖不全、心嚢水の有無などを評価します。引き続き CT 検査を行い、確定診断に至ります。血圧が高く疼痛が強い場合は降圧、鎮痛を図ることが初期治療として有効です。CT を行う際は単純に加え,造影像の早期相および後期相を撮像し、解離の診断ならびに形態、解離の進展と範囲、entry の同定、 malperfusion の有無について診断を行います。急性 A 型解離と診断された場合は、緊急・準緊急手術を考慮します。急性 B 型解離と診断され、臓器虚血などの合併症を有する場合(complicated 型)には、侵襲的治療の適応となります。循環器内科医、心臓血管外科医、放射線科医などの専門チームによる迅速な判断、治療が必要となり、集学的治療が可能な施設での治療が望まれます。当院はその体制が十分に整っていますので、24時間いつでもご相談ください。一方、合併症のない uncomplicated 型においては保存的治療を行いますが、経過中に合併症を引き起こすこともあり、およそ 1 か月間は厳重な経過観察を要します。基本的に大動脈解離の発症には高血圧症が強く関与しており、解離後のイベント発生率やMarfan 症候群など結合織疾患に発症した動脈瘤の拡大速度にも強く影響するため、併存疾患、年齢、フレイル(虚弱性) など総合的に判断したうえで、原則として 130/80 mmHg 未満を目標とした厳格な血圧管理が望まれます。大動脈疾患の危険因子または併存疾患にあわせ Ca 拮抗薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARB・ACE 阻害薬)、利尿薬の 3 剤の中から選択します。




3)外科的治療(当科で積極的に行っている低侵襲血管内治療のご紹介です)


胸部ステントグラフト内挿術(Thoracic Endovascular Aneurysm Repair : TEVAR)および腹部ステントグラフト内挿術(Endovascular Aneurysm Repair : EVAR)

近年まで大動脈瘤や解離に対する第一選択外科治療とされてきたのは人工血管置換術で、永久的に体内に植えこむ人工臓器として生命予後の向上に貢献してきました。しかし、開胸や開腹による人工血管置換術は、胸部であれば体外循環使用に伴う合併症、腹部であればイレウスなどの消化器系合併症が発生し、侵襲が高く術後の Quality of life を大きく低下させることが問題となっていました。そこで開発されたのがステントグラフト治療です。
この治療法はポリエステルや ePTFE 製の人工血管とステンレスやナイチノール(ニッケルとチタンの合金)製のステントが一体となったデバイス(治療器具)で、折りたたんだ状態でシース内に格納し、カテーテル手技により主に大腿動脈から挿入して大動脈内に運び、目的とする大動脈病変を跨ぐように展開留置します。歴史的には、1991 年にアルゼンチンの Parodi 医師によって始められ、欧米では 2000 年ごろから種々の企業製品が臨床に登場し、日本でも2006 年から腹部、2008 年には胸部の欧米企業製大動脈用ステントグラフトが厚生労働省の承認を受け保険適応となりました。本邦で使用できる企業性ステントグラフトは胸部では CTAG、VALIANT、Zenith、Relay、Najuta の 5 種類、腹部でも Excluder、Endurant、AFX、Zenith、Aorfix の 5 種類があり、それぞれ異なる企業が開発し、特性や使用法が異なるため、別個に習熟が必要です。この治療を実施するためには、まず多くの開胸や開腹手術・血管内治療を積み重ねて施設基準を取得し、ステントグラフトを標榜する医師が一般的な基礎経験を獲得した上で実施資格を得ることが必要です。また、30 例以上の実施で指導医資格を得ることができます。すべての機種で別々に実施資格を得る必要がありますので、指導医は、北陸全体でも 10 名足らずと少ない上、胸部・腹部すべての機種の指導医が揃っている施設は金沢医療センターだけです。また、過去 10 年間に 400 例を優に超える患者様を、ステントグラフトで治療しております。右上段にお示しした図は 81 歳女性の大動脈弓部に生じた嚢状大動脈瘤で、これまでは開胸・体外循環・心停止下に手術する以外になかった症例ですが、右下段の図のように頭部分枝に一致した開窓を有するステントグラフトを用いることで、手術時間は 1/4 程度に短縮し、輸血も必要なく7-10 日で退院可能となり、長期成績も従来法と同等以上で、大げさではなく従来の開胸手術に比べて 1/10 以下の侵襲で治療可能となっております。

2. 閉塞性動脈硬化症

また下の図は腹部大動脈瘤だけでなく左内腸骨動脈にも大きな瘤を認める症例で、Excluder-IBE という特殊なステントグラフトを用い、内腸骨動脈血流を温存し、腸管虚血や殿筋跛行、陰萎などを防ぐことができ、ADL を良好に保つことができるようになっております。さらに急性大動脈解離 Stanford B 型の臓器虚血(図は両側下肢虚血)を伴う Complicated 型と呼ばれる病態ですが、数時間から数日以内に死亡する可能性が高いため、発症同日に胸部ステントグラフト内挿術を緊急に行い、救命しております。これら 3 症例のように、当院では特殊技術を要するすべてのステントグラフト手術手技を網羅し、2 機種以上の指導医資格が必要な大動脈解離に対する治療、大動脈破裂に対する緊急ステントグラフト治療などハイリスクで治療困難な症例についても、県内で最多数を救命しているところです。胸部でのステントグラフト治療の成績は最難関の大動脈弓部であっても初期成功率 91%で、早期死亡率、合併症発生率、入院期間などにおいて、開胸手術に勝り、3 年時の瘤関連死亡回避率 97%、再治療回避率は 84%と報告されており、手術時の低侵襲性だけでなく、長期成績でも開胸手術を凌駕しています。特に下行大動脈病変については圧倒的に利点が大きいため、ステントグラフト治療を行わないのは“外科医の怠慢”であるとさえ言われているところです。腹部での成績も、30 日死亡率(ステントグラフト 1.2%、開腹手術 4.6%)や瘤関連死亡率(ステントグラフト 4.7%、開腹手術 9.8%)はステントグラフト群で良好であり、2 年生存率もステントグラフト 89.7%、開腹手術 89.6%で有意差はなく、腹部においてもステントグラフト治療の有用性が示されています。私たちは、ステントグラフト治療が如何に優れているかを肌で感じており、このような低侵襲治療の恩恵を患者様が受けられないことを憂慮しますので、是非該当する患者様がいらっしゃいましたら当院へ紹介頂ければ幸甚です。 (金沢医療センター 心臓血管外科 松本 康、笠島 史成)




【お問い合わせ先】石川県金沢市下石引町 1 番 1 号
         金沢医療センター地域医療連携室
         TEL 076-262-4161(代表) FAX 076-222-4188
         E-mail 302-renkeishitsu@mail.hosp.go.jp


  スタッフ紹介


■血管病センター
外科系診療部長
松本 康
■心臓血管外科部長 笠島 史成
■心臓血管外科医長 池田 知歌子



血管病センター
外科系診療部長
松本 康
略歴 昭和61年 金沢大学医学部卒
所属学会 金沢大学医薬保健学域医学類臨床教授(学外)
日本心臓血管外科学会評議員
日本血管外科学会評議員
日本脈管学会評議員
日本発汗学会評議員
日本循環器学会北陸支部評議員
心臓血管外科専門医
心臓血管外科修練指導者
日本循環器学会循環器専門医
日本胸部外科学会指導医および認定医・外科専門医
日本脈管学会認定脈管専門医
日本心臓血管外科学会国際会員
日本冠疾患学会、アジア心臓血管外科学会
日本冠動脈外科学会、日本不整脈学会
胸部ステントグラフト指導医
腹部ステントグラフト実施医
浅大腿動脈ステントグラフト実施医
下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術実施医
資格 医学博士

部長 笠島 史成
略歴 平成2年 金沢大学医学部卒
所属学会 日本血管外科学会評議員
日本脈管学会評議員
心臓血管外科修練指導者
心臓血管外科専門医
日本脈管学会認定脈管専門医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本外科学会指導医・外科専門医
日本胸部外科学会認定医
日本消化器外科学会認定医
日本循環器学会
日本血管内治療学会
日本動脈硬化学会
日本臨床外科学会
腹部ステントグラフト指導医
胸部ステントグラフト実施医
浅大腿動脈ステントグラフト実施医
下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術実施医
資格 医学博士

 
医長 池田 知歌子
略歴 平成13年 富山医科薬科大学医学部卒
所属学会 胸部外科学会評議員
心臓血管外科専門医
外科学会専門医・認定医
日本循環器学会循環器専門医
脈管専門医
胸部外科学会女性医師の会会員
資格 医学博士



  心臓外科

基本姿勢として低侵襲(体への負担の少ない)手術を追及し続けています。>
1996年(平成8年)に現在の体制となってから症例数が着実に増加し、現在に至っています。特に生活習慣病の中でも最も深刻な、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)に対する冠動脈バイパス術と弁膜症や不整脈に対する手術に他の病院には無い取り組みを行なっています。また、病気に苦しむ多くの方たちのために“No refusal policy”(24時間断らない主義)を貫いています。

1.虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス術について
(1)OPCAB(オプキャブ:人工心肺装置を使用しない心拍動下冠動脈バイパス手術)

ビデオ
▲(ビデオ : 494KB)

2012年2月に天皇陛下がこの手術を受けられ,よく知られるようになりました.
 心臓を栄養する血管を冠(状)動脈と言いますが,冠動脈に狭窄(狭いところ)や閉塞(詰まったところ)を有し,内科での薬物治療や冠動脈を風船で広げ,ステントという金属の筒を入れる経皮的冠動脈形成術という治療が行えず,冠動脈へのバイパス手術を受けられた方は心臓手術全体の約半数を占めています.
 通常,心臓手術は人工心肺という生命維持装置を使用し,体温を冷却,心臓を停止させて行ないます.狭心症や心筋梗塞に対して行なう冠動脈バイパス手術の場合も,心臓の栄養血管である冠動脈は径2~3mmと細く,拡大鏡を用いての手術となるため,現在も日本の冠動脈バイパス手術全体の半数ほどは人工心肺を用いて行われています.
 しかし,人工心肺の使用により合併症(人工心肺使用による脳梗塞)も見られることから当科では,これを使用せず,心臓の拍動を維持したまま完全血行再建を行うOPCABを1999年から導入しました.
 これは通常通り動いたままの心臓に,スタビライザーという,部分的に心臓の動きを押さえる装置を使ってバイパスを行なう,技術的には難度の高い手術です.
 しかし,人工心肺は使わないため体への負担が少なく,24時間後には歩行可能で1-2週間後には退院も可能となります.現在は,冠動脈疾患のほぼ全例にOPCABを行っています.
 当院の成績ですが,過去5年間の手術の中で,OPCAB術後の手術死亡例は無く,バイパスの開存率も98.6%と良好な成績を得ています.また当院の特徴として高齢者が多いことが挙げられます.70歳以上の方がほとんどを占めており,80歳以上の高齢者の手術も100例以上に行っています.最高齢は96歳の男性で当時の日本最高齢バイパス手術でしたが,102歳まで元気に日常生活を送られました.90歳以上の方も意外に多く10人以上が手術を受けておられます.このように,高齢で合併症の多い方にも比較的安全に受けていただけるのがOPCABです.
 さらに長期開存性(長持ちする)が高いとされる動脈グラフトを可能な限り多用しており,使用できる動脈には①左右の内胸動脈 ②左右の橈骨動脈 ③胃大網動脈 などがあり最高で一人の患者さんに7か所のバイパスを行なっています.

(2)MIDCAB(ミッドキャブ:人工心肺装置を使用しない心拍動下冠動脈バイパスを約10cmの小切開で行う手術)

 脳梗塞や腎障害など合併症の多い重症例には,左胸に約10cmの小切開をおき,人工心肺を使用せずに手術し,体への侵襲(負担)を最小限にとどめるMIDCAB(ミッドキャブ)という手法で冠動脈バイパス術を行なうことも可能です.この手術の場合,切開創(手術のきず)がとても小さく,片手の先しか胸の中に入らないため,バイパスに使用する最も信頼度の高い内胸動脈という,天皇陛下にも使用された血管を,図に示すように内視鏡という細い管で採取します.小切開の手術で技術的には難しいですが,体への負担はとても少なく,たとえ高齢であっても日常生活をある程度自立して行なっている方なら,何ら手術に障害はないと考えております.今までは適応外とされた重症例やいくつもの合併疾患をもった方にも安全に行なうことができています.

(3)腹部大動脈瘤を合併した虚血性心疾患に対するOPCABと腹部大動脈ステントグラフト内挿術による低侵襲同時手術

 当科は心疾患治療,血管疾患治療ともにトップクラスにあることが特徴で,冠動脈バイパス術と腹部大動脈瘤など他の血管疾患との同時手術も15例に行っています.腹部大動脈瘤を患っている方は虚血性心疾患を高率に合併していることが知られていますが,何れも手術治療が必要な場合,日をおいて順番に治療すると,片方の病気が足を引っ張り,手術死亡の危険性が極めて高くなります.そのため同時手術が行われますが,虚血性心疾患に人工心肺・心停止下の手術を行った上に,開腹手術を行う事は体への負担が大きすぎて危険です.このため私たちは心臓にはOPCABを行い,腹部大動脈瘤には血管の中にカテーテルという細い管を入れ,人工血管(グラフト)に金網で出来た筒(ステント)を縫い付けたものを挿入して治すステントグラフト治療を行う方法を考案しております.危険度のきわめて高い症例にも心臓・血管両方ともに低侵襲手術を組み合わせて行うことで安全に手術を行っています.

2. 弁膜症に対する手術
心臓には4つの部屋が有り,心臓の4つの部屋の仕切りをしている物を“弁”とよび,弁は血液が正しい方向に流れているときは邪魔をしないように開き,血液が逆戻りする時は漏らさないように閉じて,血液を一方向に流す役割をしています.この弁が壊れる病気を弁膜症と呼んでいます.弁膜症のうち弁が硬くなって動かず,血液の流れが堰止められる病気を「狭窄症」,壊れて血液が逆流する病気を「閉鎖不全症」と呼びます

(1)僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術について

▲(ビデオ : 8.30MB)
 弁膜症は古くから知られた疾患で,治療には痛んだ弁を手術により取りかえる弁置換術と自分の弁をできるだけ温存する弁形成術があり,当院でも冠動脈バイパス術に次いで多く行なわれています.特に弁形成術は自分の弁を手直しすることで逆流を制御する手術です。図のように僧帽弁は2枚の弁尖が開いたり閉じたりすることで血液の流れをコントロールしていますが、弁尖や弁輪、腱索(弁尖を左心室側から引っ張っている腱)などの構造が崩れてしまうことで逆流が生じます。崩れた構造を、針や糸、人工弁輪(人工弁ではなくリングと呼ばれる輪っかです)を使って直すことで逆流を止めるのが弁形成術です.弁形成を行うと弁置換のように,手術後にワーファリンという血液を固まりにくくする薬を飲まなくて良く,血行動態的にも優れた方法です.当科では90%を超える症例に対して積極的に行っており,手術死亡もなく良好な成績を保っています.

(2)心拍動下弁膜症手術

▲(ビデオ : 408KB) ▲(ビデオ : 318KB)
 弁膜症手術に関して,当院は他の施設に無い新しい治療を行っております.これまで弁膜症に対する手術は人工心肺を使い心停止下に行なうのが常識でした.実際,現在も全国ほとんどすべての病院で人工心肺・心停止下手術が行なわれています.しかし,心停止した場合,血流の再開時に細胞が破壊される再潅流障害という現象が起こり,人によってはこの障害が致命的となり,手術死亡の原因となることが知られています.
 これを何とか取り除けないかと考え,私たちは冠静脈洞(心臓を流れる血液の出口)から逆行性に血液を流す,特殊な方法を利用して,弁膜症でも心停止させずに手術を行う心拍動下弁膜症手術を行なっています.これにより,今までは重症で手術が不可能と判定されていた症例も比較的安全に手術できるようになりました.たとえば透析中の低左心機能症例(左室駆出率30%以下)も手術対象としていますが,いずれも早期の回復が可能になっています.

3. 心房細動に対する根治手術(メイズ手術:迷路という意味)

 弁膜症には心房細動という不整脈が伴うことが多く,動悸などの症状を起こすだけでなく,血栓症や心不全の原因となります.この不整脈についてもメイズ(迷路という意味)手術という治療法があり,当院では積極的にこれを行なっています.
 心臓は弱い電気で動いていますが,心房細動は心房からの電気が不規則に心室に伝わる不整脈です.メイズ手術はこの電気の通り道を切開や高周波,-60℃の冷凍凝固を用いて迷路のように入口から出口までを1本だけにする手術です.洞調律(正常の規則正しい脈)になる確立は当院では93%です.
 さらにメイズ手術を簡便にした,出血が少なく,手術時間も短縮される肺静脈隔離術という方法も考案し,大変良い成果を挙げています.肺静脈隔離術というのは心房細動の発生源である肺静脈を回りから隔離してしまう方法です.私たちの方法は2003年に米国の雑誌に掲載されました.現在はAtricureという高周波による肺静脈隔離術を積極的に行っています.

4.急性大動脈解離に対する上行弓部大動脈人工血管置換術

心疾患に加えて最近増加しているのが,大動脈の疾患です.特に危険度の高い疾患は急性大動脈解離という,大動脈壁が内部で裂けてしまう病気です.高血圧が原因で起こりますが,昼夜を問わず発症し,胸背部の激痛(体が引き裂かれる様なとよく表現されます)が特徴です.急性大動脈解離を発症すると48時間以内に50%の患者さんが死亡します.米国Stanford大学の分類が有名で左手につながる左鎖骨下動脈の上流と下流でA型,B型に分けられます.B型は血圧を下げる治療で多くは軽快しますが,A型は緊急手術の対象となります.A型解離は大動脈弁の障害,心臓の周りに血液が大量にたまり心臓を押しつぶす心タンポナーデ,頭部へ流れる血管が障害されて起こる脳梗塞などをしばしば合併するため,難易度の高い手術となります.手術は図のように頭部への血管も含め,心臓から出てすぐの上行大動脈から頭部の動脈が出る弓部大動脈まで全てを人工血管(右図)で取り換えます.この疾患についても24時間体制で診療にあたっており,最近の救命率は最重症の患者さんを含め98%と全国トップクラスの成績を保っています.


さらに広範囲の大動脈解離や大動脈弓部から下行大動脈におよぶ大動脈瘤については平成26年7月から新しい取り組みを行っております.通常大動脈弓部の手術は胸の正面を切開する“胸骨正中切開法”で行うのが一般的です.しかしこの方法では体の左背部にある下行大動脈に及ぶ広範囲の大動脈病変には対応が困難で,これまでは改めて別の機会に,側胸部を大きく切開して手術を行わざるを得ませんでした.このような病変に対し1990年代からFrozen elephant trunk(フローズンエレファントトランク:固定された象の鼻のような人工血管という意味)という手法が開発され始めました.これは人工血管とステントが一体となったステントグラフトという手術用具を,手術中の大動脈切開した切り口から下行大動脈に差し込んで広げ固定し,それに人工血管を縫い付ける方法です.この方法では図にお示ししたように,1回の手術で広い範囲の大動脈を治療できるうえに,手術を行う側にとっても大動脈に人工血管を縫い付ける位置をかなり手前に持ってくることができ,縫いやすく,出血も少ない方法で,患者様・医療者ともに負担が少なくなる点が優れています.
2015年7月にフローズンエレファントトランクに用いるJ graft open stent graft(オープンステントグラフト)という名前の企業性の手術用具が使用可能となり,2015年7月7日当科で,北陸では最も早く,このオープンステントグラフトを用いた上行弓部置換+フローズンエレファントトランク法での手術に成功しております.
この手術法は以下にお示しするように,大動脈手術の負担軽減を目的としたハイブリッド手術として,地元紙にも紹介されました.

5.内視鏡的左心耳切除術
心臓は弱い電気で動いており、刺激伝導系という電気の通り道があります。正常な心臓では、「右心房」にある「洞結節」という発電所から、心房と心室の境目にある「房室結節」という変電所、そして、一般家庭へと電線を通じて、電気が流れるように心臓の中を電気が流れ、規則正しい心臓の収縮が起こっています。
【心房細動とその悪影響】心房細動という不整脈は、簡単に言えば、心臓の「心房」の各所に発電所がいくつもあって、不規則に電気が伝わる病気です。「心房」は律動的な動きができなくなり、「心室」の拍動もばらばらで不規則になり、一般に早く打つようになります。その結果「心房」に血液がよどみやすくなり、血栓(血の塊)ができやすくなります。また、脈拍がばらばらで早くなることから「動悸」など、自覚症状の原因になるとともに、「心室」の収縮する力自体も弱ってしまうため「心不全」が起こる場合もあります。
【心房細動の頻度】心房細動による不整脈は最もよくある不整脈で、年をとればとるほど起こりやすくなります。特に60歳を境にその頻度は急激に高 まり、80歳以上では約10人に1 人は心房細動があると言われています。心房細動は、男性が女性に比べ約1。5倍発症しやすいと言われています。日本循環器学会が12都道府県の40歳以上、約63万人の心電図を調べたところ、全体の0。9%で心房細動が見つかりました。女性の0。43%に比べ、男性は1。35%と、圧倒的に男性に多く、さらに その頻度は年齢とともに増え、80歳以上では女性2。2%、男性4。4%でした。日本の心房細動の有病率は欧米に比べると低いものの、今後高齢化が進むと、患者数は2010年の約80万人から、20年後の2030年 には100万人を突破すると予想されています。ですから、心房細動はまれな疾患ではありません。年齢を重ねると誰にでも起こる危険性があります。心房細動患者さんが増えるにしたがい、心原性脳塞栓症を発症する患者さんも増加することが予想されます。

【心房細動は脳の病気でもある】 心房細動は稀ではない不整脈ですが、実は大変危険な不整脈であり、その最大の問題は脳梗塞などの致死的血栓塞栓症が何の前触れもなく突然起こることです。左心房内の血液が淀み、左心房から突出した“左心耳”という場所に血栓が作られ脳などの重要臓器に流れてしまうことが主な原因であると考えられています。脳卒中データバンクによると、心房細動が原因の脳梗塞は脳梗塞全体の約20%を占めています。動脈硬化性など、その他のタイプの脳梗塞と比べ、血栓により突然大きな 血管が詰まるため、梗塞を起こす範囲が広くなることから、死亡率が高く、重い障害を残し易いという恐ろしい特色を備えています。死んでしまえばそれまでですが、重度の後遺症を抱えて生き延びれば長期の入院、リハビリ、高いレベルの介護が必要になるなど、家族への負担は言うに及ばず、医療費負担も大変大きなものになります。また、最近の調査によると、おそらく微小な血栓のため、心房細動の患者さんは認知症やうつ病が併発しやすい傾向があります。したがって“心房細動は脳の病気”といっても過言ではないのです。 心房細動の患者さんの中でも、高齢の方、以前脳梗塞になったことがある方、糖尿病や高血圧症のある方などは、脳梗塞発症あるいは再発の危険性が高いため予防治療の必要性が高くなります。80歳超の心房細動の患者さんに何も予防策を講じないと50%以上の方が脳梗塞を発症するという驚くべき報告もあります。心房細動の患者さんにとって左心耳は危険な血栓製造工場です。左心耳にできた血栓が剥がれ血流に乗って大動脈から頚動脈を経て脳の血管に詰まり脳梗塞を引き起こします。

【抗凝固薬による心房細動性脳梗塞予防治療について】
心房細動性脳梗塞の一般的な予防法は、血液を固まりにくくする抗凝固剤を服用する抗凝固治療とよばれるものです。抗凝固治療は、全身の凝固機能を抑えることにより、心臓や管の中の血栓を抑える治療法です。抗凝固治療は、クスリを飲むだけですので、心房細動性脳梗塞のリスクが高いと判断された患者さんにすぐに始められるという利点がありますが、一旦飲み始めたら、一生休薬することなく続けなくてはなりません。しかし、もっとも危険な副作用(=出血)のある薬を長期間何事もなく服用し続けるのは困難です。どの患者さんも長い一生の間には、いろいろな理由(出血などの副作用が出た、手術を受ける必要がある、怪我をした、等)により休薬や減量を余儀なくされることがあるはずで、そのたびに脳梗塞の危険に晒されることになります。そこで、血栓の製造工場となっている左心耳を体に負担の少ない方法で切り取ってしまう手術を行うこととしました。

【内視鏡的左心耳切除術】
私たちの行った手術は内視鏡的左心耳切除術(ないしきょうてきさしんじせつじょじゅつ):WOLF-OHTSUKA法 と呼ばれるもので2018年(平成30年)6月22日にお2人の患者さんに北陸で初めて行いました。文字通り内視鏡(胃や腸の検査や治療に用いる細長い管と同様の機械です)を使って、4カ所の小さな切開から内視鏡や手術用のピンセット、はさみなどを胸の中に送り込んで、左心耳を切り取りますが、ステープラーという内視鏡手術で使用する自動吻合機を使います。(Powered Echelonという商品名です)組織を瞬時に切ると同時に3列 の医療用ホチキスで閉鎖します。心臓の中から左心耳内に詰め物を移植して左心耳をふさぐカテーテルによる方法(Watchmanデバイス)に比べ、出血などの重大合併症を起こさない安全性と、どんな大きさや形の左心耳でも残さず閉鎖する確実性、および経済性(使用する道具が圧倒的に廉価)に優れています。また、手術時間も30分程度と早く、ほとんどの患者さんが術後ただちに(一部の患者さんが手術1か月後に)抗凝固治療(血液をサラサラにするといわれているお薬)から解放され、そのほかの補助薬も不要です。左心耳をいじらずにその根元でさっと切るため、左心耳に血栓がある場合でも切り取ることができます。 この法には次のような効果があります。
① 脳梗塞予防効果:
切り取った左心耳は2度と生えてきませんので、この効果は一生維持されます。脳梗塞リスクの高い患者さんを中心に手術が行なわれていますが、心臓からの血栓が原因となる脳梗塞を回避できる確率は99。6%です。 ② 抗凝固治療からの離脱効果:
出血性病変(消化管出血など)を持つ方など抗凝固治療が困難な患者さんは言うに及ばず、抗凝固治療によって日常生活に支障がある方や不安をお持ちの患者さんにとって離脱効果は大きいといえます。抗凝固治療から離脱できる確率は99。3%です。 今後多くの患者様を脳梗塞からお救いできると考えております。心房細動と診断された患者様は是非ご相談ください.

6.最後に心臓手術を受けられる皆様へ
 総じて言えることは,様々な工夫と手術機器や技術の進歩により,現在では心臓手術も命がけの手術から,安全・確実で身体に負担の少ない手術へと様変わりしており,生活の質を向上させる手段の一つでも有るということです.
 心臓手術が必要な方は,全国どちらからでも御受け入れ致しますので,金沢医療センター(下記メールアドレス)心臓血管外科まで御連絡下さい.またセカンドオピニオンを求めておられる方も御気軽に御相談下さい.
E-mail:302-renkeishitsu@mail.hosp.go.jp

  血管外科


現在の高齢者社会で急速に増加している動脈硬化による病気につき説明します。


1.大動脈瘤

動脈壁が動脈硬化などにより傷んでくると血圧に耐えられなくなり膨らんできます。 一度動脈の一部に膨らみが出来るとその部に圧がかかりどんどん外方に張り出し、動 脈瘤を形成します。正常の太さの2倍以上になると動脈瘤と診断します。 動脈瘤は出来る場所により次のように分けます。

1)胸部大動脈瘤
胸部レントゲン撮影などで偶然発見されることが多い。声がかれてくることで気付くこともあります。

2)腹部大動脈瘤
臍を中心に拍動性の塊として触れます。太った人は発見されにくいことが多いので、血圧の高い人などでは超音波で検査すればはっきりします。

3)末梢動脈瘤
その他の細い動脈にも瘤はできます。脈を打っている腫脹があったら見てもらってください。

【破 裂】
動脈瘤の恐ろしいのは、それまでは単に動脈が膨隆しているだけでほとんど症状を呈さないのですが、一度この膨れた所が破れると血液が外に洩れ、大出血を来たし、死に至ることです。破れるときには激しい痛みを生じ、出血を伴うため血圧が低下し、ショックとなることもあります。

【治 療】
1)血圧の高い人は動脈瘤が出来やすいし、出来ると急速に大きくなる危険があるので血圧を上げないよう注意してください。破裂の原因となるのは、重い物を持ち上げる、排便の際、力をいれていきむ、腹部大動脈瘤では急に背を伸ばした時などがあります。

2)人工血管置換;動脈瘤の治療は破裂を防ぐことが原則です。このため、太くなった動脈を含む動脈を切開し、正常な動脈間に人工血管を植え込み、その上を動脈瘤の壁で覆っておくのが標準的な治療です。

<胸部大動脈瘤に関するちょっと詳しいお話し>

胸部大動脈瘤は10万人に対して3人ほどの患者さんが毎年新しく発症するとされています.症状は嗄声(声のかれ)が出ることもまれにありますが,通常全くありません.腹部の動脈瘤であれば,お腹に“ドキドキするこぶ”をふれることもしばしばあるのですが,胸部は肋骨や胸骨という骨に囲まれており,触れることができないため,症状が出にくいのです.健康診断や他の病気で病院にかかり,レントゲンやCT検査を行った際に偶然見つかることが多い病気です.
しかし,症状はないもののある程度の大きさを超えると,破裂の危険性が高くなります.しかも一旦破裂すると救命率は10%程度,病院にたどり着けずに亡くなる人も半数以上と極めて危険度の高い病気で“サイレントキラー”(静かな殺し屋)と表現する医師もいるほどです.
治療が必要となる条件は
①大きさが5.5cmを超えるもの(ガイドライン)
腹部では5cm以上が治療対象となります
②嚢状大動脈瘤:1部が弱く嚢状(でべそのように1部膨らんでいる)もの
嚢状のものは破裂しやすく比較的小さくても治療を行います
③半年で5mmを超える拡大(通常動脈瘤は1年に1-2mmしか拡大しません)
とされています.

■胸部大動脈瘤の治療

胸部大動脈瘤の治療は外科的手術(人工血管置換術)と血管内治療(ステントグラフト内挿術)の2つに大別されます.
胸部の外科的手術では胸を開いて瘤を人工血管に置き換えます.(心臓外科の項目をご覧ください.)人工心肺装置を用いて下半身や臓器,脳の血流を維持しながら行う必要があります.合併症として出血,脳梗塞,腎不全などの臓器不全,肺炎,感染等の可能性があり,ときに下半身の麻痺が生じることもあります.
これに対して,現在は,体への負担が少ない,ステントグラフト内挿術という方法が行われ(上図)当科でも積極的に行っています.腹部大動脈瘤の項目で詳しく述べられていますが,ステント(金属の筒)とグラフト(人工血管)を縫い合わせて一体としたものがステントグラフトで,胸を開かずに,股の血管からカテーテルを用いて瘤の中へ埋め込みます.全ての方に使用できるわけではありませんが,上述の通り,身体への負担が非常に小さいのが特徴で,術後の安静や入院期間が短縮されます.本邦では、胸部の企業性ステントグラフトは腹部より遅れて2008年に認可されました.当院は既にその実施施設に認定されております.
また,胸部のステントグラフトには,CTAG(GORE社),VALIANT(MEDTRONIC社),ZENITH ALPHA(COOK社),RELAY(BOLTON社),NAJUTA(KAWASUMI社:日本製)の5種類があり,それぞれについて個別の実施資格が必要です.当科ではすべての機種について指導医(実施医師の指導を行う資格)が常勤しております.


また,最近では単純な下行大動脈の瘤だけではなく,頭部への3本の血管が分かれる大動脈弓部に及んだ大動脈瘤に対しても,人工血管などでバイパスを置いてからステントグラフト治療を行うdebranch(デブランチ:枝を本来の位置から外すという意味)法や頸動脈に煙突のように細いステントグラフトを大動脈のステントグラフトと並べて挿入するchimney(チムニー:煙突の意味)なども行われています(上段の図).さらに,弓部大動脈瘤に対して,3Dプリンターで患者さんの大動脈と寸分たがわぬ模型を作り,頭に行く血管に合わせて穴があけられている,国産の開窓型ステントグラフトが開発され(下段の図),実際に体を切開して行う弓部置換(心臓外科の項目をご覧ください)と全く同等の治療効果が得られるようになっています.この方法により,大げさでなく開胸手術に比べて1/10以下の侵襲(体への負担)で,弓部大動脈瘤治療が可能となっています.

最後は手術(人工血管置換術)とステントグラフト治療のハイブリッド(あいの子)治療についてです.車では電気とガソリンの両方で走るものをハイブリッド車と言いますが,胸部大動脈治療では実際の切開とカテーテル治療の2つを組み合わせた治療をハイブリット手術と呼びます.これは上行大動脈から腹部大動脈近くまでの広範囲にわたる胸部大動脈瘤や大動脈解離に対する最新治療で,すべてを1回の治療で行い完全に治すこともできるようになっています.
これまで2回に分けて大手術を行っていた治療に比べ,体への負担,入院期間,入院費などが大幅に少なくてすむようになっています.


<腹部大動脈瘤ってこんな病気です>
腹部大動脈瘤とは、左図の矢印で示すように腹部の大動脈が瘤状になって「こぶ」の様に膨らんだ状態です。大きくなると破裂する危険があり、破裂した場合の死亡率は全体として約80%で、緊急に手術ができたとしても半数近くが亡くなられます。特に直径5cmを超えると、急速に破裂の危険性が増加することがわかっており、5~6cmの大きさでは5年間に20-30%程度の確率で破裂が見込まれます。そのため5cm程度の大きさになったら、治療が必要になります。

治療方法には大きく分けて
■外科的手術(人工血管置換術)
■血管内治療(ステントグラフト内挿術) 
の二つがあります。

■外科的手術(人工血管置換術)
従来の標準的な治療法です。全身麻酔のもとでお腹を切り開き、瘤の上下で血流を遮断し、瘤を切り離して、布製の人工血管で置き換え、縫い合わせます。
相応の体の負担があり、術後数日は、絶食、安静となります。また瘤を切り開く際に出血するため、輸血する可能性は比較的高くなります(全体の1/3ほど)。一般的には手術の際、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全等の合併症が生じる可能性が併せて5%程あります。開腹による腸管の麻痺・癒着の可能性が2-3%あります。その他、性機能障害、下肢虚血、腹水、呼吸器合併症(肺炎など)等の可能性もあります。成績は安定していますが、手術による1ヶ月内の死亡率は2-3%と言われていますが、当院では過去5年以上手術死亡はありません。
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■血管内治療(ステントグラフト内挿術)
ステントグラフトとは,人工血管(グラフト)に金網で出来た筒(ステント)を縫い付けたものです。両股の血管を開いて、カテーテル(細長い管)を通じて、瘤の中に埋め込み、瘤へ血流が流れ込まないようにする治療法です。体を切る部分は股だけのため、体の負担が少なく、食事、歩行も早期からできます。入院期間も短くてすみます。欧米のデータでは、脳、心臓、腎臓、呼吸器等の合併症も比較的少ない結果です。カテーテル操作に伴う血管損傷1-6%、塞栓症(血の塊やコレステロールなどが血管内に飛び散る)が1%ほどに認められます。造影剤アレルギー(吐き気、じんましん、ショック)の可能性は血管造影検査と同様です。1ヶ月内の死亡率は1%未満と良好です。ただし、血流が瘤へ流れ込んでこないか定期的に(例:1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月後、1年後、以後1年毎)CTスキャン等で検査を行う必要があります。2年後で5%ほどに漏れが認められますが、必要な場合は追加処置を行います。


ステントグラフ挿入術の実際を左に示します。 右股の動脈から柔らかい筒に格納したステントグラフト本体を腎動脈の下から大動脈瘤内に留置し,左股の動脈から左脚を追加します.両股の切開(左最下段の図)だけで手術可能です。

手術前後の血管造影を左に示します。ステントグラフトにより腹部大動脈瘤(こぶ)は消失しております。

この治療法は欧米では以前から行われていますが、日本では企業製のステントグラフトが使用できなかったため、各施設の手作りで一部の施設でのみ行われてきました。しかし、ようやく日本でも初めて企業製のステントグラフトが承認されました。まだ使用できる施設は限られていますが、当院は今までの実績から実施施設に認定され、既にステントグラフトの埋め込みに成功しています。

このようにステントグラフト内挿術は,患者様に与える侵襲が以前の全身麻酔下に開腹して行う手術に比べて極めて小さいです。 しかし,全例に施行できるわけではありません。 当院では患者様ごとに慎重に精査し,最適の方法を選択しております。


2.閉塞性動脈硬化症

「閉塞性動脈硬化症」とは、足の動脈が動脈硬化のため狭くなったりつまってしまい、足に充分血液が流れず血流障害を起こした状態です。 足は筋肉量が多く運動も激しいので血液が不足するとその減少度により症状が変わります。最初は寒い日に足が冷たく感じたり、寝床に入っても暖まるのに時間がかかるように感じます。もう少し進むと、歩行時に足・大腿や腰の筋肉が固く、痛くなってきます。さらに進むと足の色が赤紫色あるいは白っぽく血の気が無くなり、ちょっと歩いても痛くなるようになり、寒い日などはじっとしていても痛みが去らない状態になります。時には、足趾先が黒くなったり潰瘍を作ったりします。この状態を放置していると突然、残っていた太い動脈が詰まったりして足が大きく虚血になり、切断が必要となることもあります。

○急性動脈閉塞
動脈硬化はある一ヶ所の動脈だけがなるわけではなく、多くの動脈に生じます。このため、動脈が急に閉塞し動脈血が流れなくなると、その末梢の組織に血液が行かなくなり、酸素が不足し、最終的には壊死に陥ります。この状態はその末梢臓器により異なり、脳塞栓、心筋梗塞や下肢の急性壊死となり、生命にも関する重大な症状を引き起こします

同じ閉塞性動脈硬化症でもその支配する臓器により進行に伴う症状も異なります。

1)冠状動脈
心臓を栄養する動脈に狭窄や閉塞が生じて起こる状態が狭心症と心筋  梗です。狭心症は冠動脈が細くなっているけれども心臓への血液が途絶えていない状態です。このため、運動したり興奮したりして心臓が早く働くと痛く感じるのです。この痛みは5分以内でニトロール剤を服用すると治ることが多い。これに対し心筋梗塞は冠動脈が閉塞したり、一時的に閉塞したりして血流が停止し、心臓の一部の筋肉が死んでしまった状態です。この範囲が小さければ心臓はその機能を保つため生き延びることが出来ますが、多くに筋肉が傷んでしまうと心臓は十分収縮で  きなくなり全身に血液を送れなくなり死亡につながります。

2)下肢を栄養する動脈
足は筋肉量が多く運動も激しいので血液が不足するとその減少度により症状が変わります。最初は寒い日に足が冷たく感じたり、寝床に入っても暖まるのに時間がかかるように感じます。もう少し進むと、歩行時に足・大腿や腰の筋肉が固く、痛くなってきます。病気の進行は歩行距離が段々短くなることにより解ります。さらに進むと足の色が赤紫色あるいは白っぽく血の気が無くなり、ちょっと歩いても痛くなるようになり、寒い日などはじっとしていても痛みが去らない状態になります。時には、足趾先が黒くなったり潰瘍を作ったりします。この状態を放置していると突然、残っていた太い動脈が詰まったりして足が大きく虚血になり、切断が必要となることもあります。

予防と治療
1)動脈硬化の予防
動脈硬化は病気です。高血圧、塩分の採りすぎ、高脂血症、糖尿病と喫煙など危険因子は解っています。これらをコントロールしいつまでも弾力性を持った動脈でいたいと思います。

2)進行の抑制
日常生活から動脈硬化を進行させる因子を出来るだけ少なくする努力をします。必要に応じ、最も適した薬を服用します。これらの薬剤は一度始めたら出来るだけ継続し、中止や減量の際は慎重に行ってください。急に中止するとかえって危険なこともあります。

3)カテーテルによる拡張
最近急速に発展した方法で、バルーンのついたカテーテルを動脈の狭くなった所へ誘導し、そこでバルーンを拡げ、狭窄部を拡張する方法です。この方法でうまく拡がり、それが長く続く例もあるのですが、再狭窄もかなり見られます。これに対し、バルーンの外側に金属の網状の筒を持っていき、これを一緒に拡げ、その金属のワッパをその部位に留置してくる方法が行われています。ステント療法といいます。これにより長期成績は改善しています。


4)手術療法:動脈の狭窄や閉塞に対し、種々の手術療法が行われます。
*内膜摘除とパッチ拡大;動脈の狭くなっている部分を削り取り拡げる方法、狭くなった部を切開し、パッチを当てて拡げる方法、この両者を合わせて行う方法などがあります。
*バイパス作製;閉塞している動脈を残したまま、開存している中枢から末梢まで自分の動脈や静脈、太い血管では人工血管を用いバイパスを作り、末梢への血流を再建する方法です。


  静脈外科

1.下肢静脈瘤
足の表面に膨れた静脈が蛇行している状態です。妊娠を繰り返したり、長時間の立仕事や足に力を入れる仕事の人に多く見られます。成人女性では20%、男性でも7%近くに認めると言われています。

下肢静脈瘤ってどんな病気?
足の静脈の構造 足の静脈の本幹は、筋肉の深い所で骨の横を動脈や神経に寄り添って流れています(深部静脈)。 本幹と別に皮膚のすぐ下にも静脈があり、足の付け根と膝の後で本幹に合流している表面の静脈(表在静脈)があります。  また、深いところを流れている本幹(深部静脈)と表面の静脈(表在静脈)の間をつなぐ枝(穿通枝)があります。 静脈には血液を足先から心臓に返すために、いたるところに弁(静脈弁)があります。左下に静脈弁の拡大図がありますが、この弁の作用により、上向きの血流が可能となります。2本足で立っている人間では血液はその重みで下に戻ろうとしますが、これを食い止めているのが静脈弁です。

静脈瘤とは?
ところがいろいろな理由で表面の静脈(表在静脈)の弁(静脈弁)が壊れて血液が逆流し、静脈の圧力が上がって膨らんでしまうのが静脈瘤という病気です。


※2つの図は,アルケアKKのご好意により,愛知県立看護大学平井正文教授監修の冊子から改編して掲載させていただきました。



○症 状
静脈瘤が高度になると血液が足によどんで、疲れやすい、色がつく、潰瘍ができるなどの症状が出てきます。 時には静脈内に血液の塊(血栓)ができ、それが肺にとび呼吸困難となる場合もあります。重症例では突然死の原因にもなります(エコノミークラス症候群)。

1)皮膚の下に青い静脈が見られ、最初は立ったときに細いのが見られますが、段々太くなり屈曲し目立つようになります。 2)立っていた後や夕方にふくらはぎが疼くような傷み、抜けていくようなだるさ或いは痙攣を来します。
3)段々足が太くなります。とくに足首や下腿で朝夕の差が明確になります。
4)太い静脈内に血の塊が出来て赤く炎症を起こし、固く、痛く触れます。

5)皮膚が硬くなり、黒く汚れた色に変わり、最後には皮膚が破れ、治りにくい潰瘍を形成します。

○治 療
1) 硬化療法
静脈瘤の中に血液を固める薬を注射して圧迫し、固めてしまう方法です。外来通院で可能ですが、再発が多いのが欠点です。

2) 根治的抜去術(ストリッピング術)
100年以上前から行われている手術です。逆流している静脈を数箇所で切開して抜去します。麻酔は背中に麻酔用の細くて柔らかい管を入れ下半身を麻酔します。手術中に寝ていたい方は麻酔科に相談して下さい。 通常2泊3日の入院で治療可能です。前日に入院していただき、翌日手術し、次の日には退院です。
また抜去した静脈瘤に沿って青あざができる場合があります。これは静脈瘤の枝からの出血で、枝をすべて処理しようとすると傷が多くなり余計に目立つので、外から圧迫して止血しますが時に目立つ場合があるのです。しかしこれは時間がたてば必ず消えてゆきます。術後しばらくの間切開した傷や静脈瘤を抜去した部位に痛みや痺れを感じることがありますが,これも時間と共に軽快していきます。 手術ですからどうしても傷がつきますが、皮膚の筋に沿って目立たないように小さくし、数はなるべく少なくします。また病気の特殊性から手術でも瘤を完全に切除できない事もあり,硬化療法や局所麻酔下の部分切除が必要になる場合もあります。
退院後,日常生活には問題ありませんし軽作業は可能です。一週間ほど後に外来で術後の診察をさせてください。
右にストリッピング術前と一週間後の写真を示します。御参照下さい。 一週間後では、まだ少しきずがわかりますが,これも日を追うごとに目立たなくなってゆきます。

○後療法
どの治療法を行っても数日から2週間は強く包帯で圧迫します。その後は3~6カ月、弾性ストッキングを着用してもらいます。


2.下肢静脈不全症候群
静脈瘤のひどい方や静脈瘤がはっきりしないのに足の腫れがひどく、痛みを伴い、下腿から足にかけ色素沈着などを認める人がかなりあります。静脈瘤を治療しても余り症状が良くならない、早く症状が再発する病態です。足の中央、深い所にある静脈弁が合わなくなり、立っている時に全身の静脈が足に逆流するため生じている現象だということが解ってきました。
静脈造影で血液がそけい部から膝の下まで逆流することで診断します。
【静脈弁形成術】
この逆流を止めるために弁が合うように種々の手術が行われています。私たちは静脈壁の外側から拡張している静脈を縫縮する方法を世界で初めて行い、現在まで50例以上行っていますが全例順調に経過しており、再発は1例もなく良い方法だと考えています。

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